第120話だい2らうんど
オブ「ふふっ、やっぱりお二人共、一人の時より生き生きされていますね。ですが……それでも」
不思議なオーラを纏ったロイオが高速の攻めで押し、細かくテレポートをして神出鬼没な援護射撃を繰り返すねこねこ。息ぴったりのスイッチも交えてラキスたちと一見互角に戦っているように見える。
オブ「クロムがいる限り、お姉様に有効打は決まらないでしょう……」
オブは、四聖獣たちの力を詳しく知らない。その中でも、まだ知っている方のクロムは『
ロイオ「……ねこねこ、次だ」
渦巻く火炎と雷を迸らせるゴム棒がクロムの防壁に押し返されたロイオ。だがその眼は、まるで虎視眈々と期を待つ狩人のような鋭さがあった。バックステップにより崩れた体勢を戻し、相棒を一瞥する。
そして普段から明るく声が高いねこねこも、この時は低めの声で空中から返す。
ねこねこ「りょーかい。じゃあ――
ラキス「させないよ」
詠唱の隙を見逃さず、飛び込むラキスはつい先程、ロイオの時と同じように間合いを素早く詰めた。流れるような足運びで地を蹴り跳ぶラキスと余裕の表情を浮かべるねこねこ。その間に割って入る影がねこねこの余裕を証明した。
ロイオ「お前はそういうタイプだよな」
ラキスの行動を先読みしたロイオだ。空中でその鋭い突きを片手で捕らえる。
その様子を喜ぶようにラキスは声を張る。
ラキス「へっ、解ってきたじゃん!」
ねこねこ「——
クロム「……赤い霧……」
ねこねこの白衣の裾から溢れ出すそれをクロムは小さく開けた口でそう形容する。
赤い霧が道場全体に広がり、うっすらとでしか皆を視認出来なくなる。ラキスとロイオは攻防を止め、お互いに距離を取って着地する。
オブとクロムが異変に気が付いたのはその時だった。
オブ「これは……? 周りの霧が段々濃くなっていますね」
クロム「目眩まし」
すぐにねこねこの意図を読んだ聖獣にラキスも頷き、気を探り始める。
ラキス「気配も消えた……クロム、鼻と耳」
クロム「……甘い、ダメ。無音」
小さくも常人の数百倍の嗅覚を持つ鼻孔は花の香りにやられ、空中浮遊するねこねこは勿論、ロイオの足音は発動している『花色の調べ』により消されている。
ラキス「参ったねぇ……索敵は――」
肩を軽く上げ長髪を揺らすラキスだったが、僅かに動いた霧を目の端で捉えると、瞬時に後ろ蹴りを繰り出す。
ラキス「苦手なんだけどね!」
言葉とは違い、的を捕らえた音がした。
ラキスの攻撃に堪えられず、霧の外へ弾き出されたのは、一振りのゴム棒だった。
ラキス「(読み違えた!?)」
この戦いが始まって、最初の失態が僅かに隙を生む。
ロイオ「……やっとだ」
霧の奥からぽつりと零れた一言にクロムが気が付く。
クロム「……来る」
それは赤い霧の中から突然動き出す。
万物を引き寄せる磁力で、先ほどの地に放られていたゴム刀がひとりでに突きを放ったのだ。まるで誰かが両の腕を使って繰り出したかのようなその攻撃を絶壁たる守備力を持つクロムが障壁を展開して受け止める。
緑の球状の壁が玄武とラキスを囲い、無人の攻撃を防いだ。ゴム刀は力の作用を失い、地に落ちる。
クロム「(さっきの攻撃はコレ……)」
クロムにとってその攻撃は、スキルを使わずとも容易く防ぐことができる程度の威力であった。だが、ラキスの僅かな隙に付け入らせないために使った。
聖獣――玄武にとって、主を護るという防衛本能が働いたごく当たり前の瞬間である。
そのごく当たり前を、ロイオとねこねこは知っていて、狙っていた。
ロイオ「やっと、詰みだ」
玄武のスキルは、物理・魔法問わず、外部からの攻撃を遮断できる強力な防御特化スキルである。
ロイオはその内側、赤い霧に紛れて球状の壁の中に忍び込んでいた。
ラキス「ハァッ!」
クロムとラキスの間にしゃがんでいたロイオの言葉に気が付き、拳を振るう。
ほんの僅かな焦りを含んだ攻撃が当たる直前、ロイオは魔法を発動させる。
ロイオ「テクニカルアウト」
上級妨害魔法の効果で、ねこねこの赤い霧とクロムの障壁を打ち消したロイオは、ラキスの攻撃を受ける。
ラキス「アンタっ⁉」
殴った感触がやけに薄い、そう思うと同時にロイオがわざと身を引いて、後ろに素早く移動するのに利用されたと結びついたラキスは顔をしかめた。
一方、霧が晴れるとクロムはすぐさまロイオではなく、ねこねこを探し見つけていた。
ねこねこ「あ、見つかっちゃった?」
地に足をつけ、両手に魔力が凝縮した白衣の裾をたなびかせながら、からかうように少年は笑う。
笑みの意味を察知したクロムは障壁を出そうとするが、スキルは発動しない。ロイオの『テクニカルアウト』は僅かな時間、スキルの効果を敵味方問わず封印する結界を広げる。
クロムはロイオが使用した魔法の効果すべてをこの時理解した。
同時に、「詰み」という言葉の意味も。
ねこねこ「けど、詰みだよ――
ラキスとクロム、二人の足元に突如として出現した魔法陣が強力な冷気を放つ。
スキルを封じられ、身を護る術を持たなかった二人に容赦なく襲いかかる凍結。体の感覚が芯から消えていき、真上に上がる氷の奔流に意識が飛ぶ。
ねこねこの手から魔力が消え、道場の真ん中に大きく太い氷柱が出来上がった。
オブ「……あの、お姉さまたちは……無事ですよね?」
ロイオ・ねこねこ「「あー……てへぺーろ」」
不安げだった様子から一変、誰にも見せたことないような激怒の表情を浮かべるオブに、ロイオとねこねこはたじろいでしまう。
ロイオ「すぐ救出致します‼」
ねこねこ「ま、魔法は……中級だから威力はそんなに……だよ?」
炎と水のフォースを交互に使いわけて、氷を砕かないように慎重にロイオは調整しながら冷や汗をタラタラと流す。
ねこねこは、オブの怒りを更に買って……ひたすらに冷たい目を向けられ続けていた。
ねこねこ「……こんなオブおねえちゃんヤダよぉ……」
セアラ「……私を見るな。姫様の怒りなら、長引かないから早く救出しろ」
ヴィッツ『勝利した経験者は語る』
セアラ「黙れ、本気も出さずに……何を言う」
ヴィッツ『てへぺーろ』
セアラ「……呆れる」
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