第118話イメージなんてあてにならない
ラキス「へぇ……あんな獲物でよく斬れるもんだ。成長したね、セアラ」
アタシはソフィアのために魔法の才を捨てて剣の道を選んだアンタを誇りに思う。けど、好敵手を失った虚無感がずっと消えることがないのは辛いねぇ……。
とは言え、今のセアラが放つスキルを造作もなく回避するヴィッツは一筋縄じゃいかない。何せ、先日のモンスター大侵略で領外の軍勢を一人で退けた張本人。力を使い切って寝てたところをアタシが保護して雇ったんだ。記憶障害も起こってたみたいだしね。
ねこねこ「ねぇー西のおねーさん」
強き二人の闘いを腕を組んで胡坐で眺めているアタシを、異界の白い少年が
ねこねこ「一つだけ、言っておいた方がいいかなーって思うことがあるんだけどー、聞く?」
屈託のない笑顔の端に影が掛かっているが、逆にそれがアタシの興味をそそった。胡坐の状態から片足だけ立てて、少年の方に塞がっていない目を向ける。アタシの様子を確認するように眠気の残る視線を動かしたクロムには、無言で動くなと伝えた。
ねこねこ「ロイオはねー、ゲームだとー実力無しの負けず嫌いなんだけどー」
ラキス「……」
ねこねこ「リアルだとー、実力がちゃんと伴ってる負けず嫌いなんだー」
ラキス「……へぇ」
少年の言っている意味が分からなかった。ゲームとやらは盤物や札物のことを差すのだろうが、今この現状を差すのには不適切な言葉の選択が続いたのだ。実力が伴っていないからアタシに負けたというのに少年はそんな事実などないと言いたげな様子でいた。
クロム「……ラキス、あそこ」
緑色の甲冑に包まれた黒の袖を伸ばす方角に視線をやった――途端、光とも闇とも似つかない混沌とした波動の砲弾が外から向かってきた。
ラキス「おっと」
少し慌てて包帯の巻かれた腕を伸ばしてスキルを発動する。
手の平から展開した緑色の障壁が波動を四散させるが、アタシの驚きはまだ続いた。だが、これを表に出すのは愚行だ。戦闘はまだ終わっていないのだから。
ラキス「まだ、やるのかい? これ以上、ソフィアの友人をボコしたくないんだけど」
アタシの言葉に返事はない。ふらついた足で身体を支え、口の端から体液を垂れ流す。顔色は青白くなり砂利が頬についていた。その男の目に輝きが戻るまで数秒を有すもそこを突く気はない。
オブ「ロイオさん!」
セアラ「休憩も大概にしろ……バカ者め」
ねこねこ「ロイオー、怒っちゃだめだよー」
ロイオ「一人だけうぜぇのいるなァおい!」
観客の声が耳を突き抜けた男は何故か怒号を飛ばす。なんて偉そうな説明口調してるが、実のところアタシが一番喜んでいる。
こいつは骨のある男だった。
ラキス「……」
ロイオ「ハァっ……なんだ、そのほほ笑みは?」
ラキス「なんでもない。それで、井の中の蛙とやらを教えてくれるのかい?」
ロイオ「……ああそれか。取り消すよ」
さっぱりとした言い方にきょとんとする。
ロイオ「二発でイエローゾーン手前まで削るお前に俺が偉そうな口を叩くのは失礼だった。謝るよ」
ラキス「似合わないねぇ、さっきまでのアンタのイメージとは合致しない言葉だ」
ロイオ「ふん……イメージなんてものはコロコロ変わる。当てにするだけ無駄だ。それにお前が抱くそのイメージはもう一度変わる」
杖代わりにしていたゴム刀を投げ捨てる男によって空気が変わるのを肌で感じる。だが、ピリつく素肌とは別に疑念が起こる。さっきまでの力に手抜きは感じられなかった。この男にアレ以上の力を出すのは無理だ。
ラキス「ハッタリ、っていう割には覇気が強いな……まあやってみなよ。やれるならの話だけど――ねッ!」
ダッシュと共に手刀を小生意気な首へ振るう。
男は已然として動く素振りを寸でのところまで見せなかった。
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