第116話ゲームプレイヤーのげんかい
ロイオ「キルハ、ディフ、スピット、ウルスピット、グレーターフルスピット!」
ロイオの舌が五重詠唱を噛まずに終えた瞬間、ラキスの足下で展開する無詠唱の魔方陣。
ラキス「――魔法剣士――」
敵の職業を見抜いた西の領主は、ゴム刀を手放しゆったりと前進するが発動する地雷式の魔法が爆炎を上げ姿を眩ませた。
すんなりと発動した魔法に拍子抜けするロイオだったが、包帯の巻かれた手で煙が引き裂かれたのを見て気を引き締めなおす。
ロイオ「だよな」
ラキス「見掛け倒しってやつだねぇ。葉巻でも吹かしたのかと思ったよ」
ロイオ「安心しろ、次は
ゴム刀に炎を付与し、攻めに出るロイオに対してラキスは唇を細め八重歯を晒す。
ラキス「来な」
ロイオ「ふっ!」
斜め上から降りる燃え盛るゴム刀を拳で止める西の領主にロイオを目を見開くがすぐさま迫る次打が開いた目を歪ませた。
ロイオ「くっ……」
ラキス「ほらほらァ! どしたどしたァ⁈」
鋭い拳と足技は強化されたロイオと比べれば強くも速くもない。だが、タイミング、角度、間合いを僅かにずらして繰り出される連続攻撃が防戦一方に追いやった。炎を纏った武器は防御するだけで相手にダメージを与えているが、まったく意に介していないラキスの果敢な姿が精神的に不安を募らせる。
ロイオ「クソっ!」
無理やり攻撃に転じて生まれた隙に付け入るラキスの正拳突き。
ラキス「そいつは悪手だよ」
腹を抑えながら床を滑っていくロイオに一つの言葉が思い上がる。
『出し惜しみをするな』
先ほどのセアラの言葉が脳内で木霊した。
ロイオ「……」
今のバフでは足りない。少し足したところで焼け石に水だ。
ロイオ「……(今使うべきか、どうかだな)」
ひた隠しにし続けている切り札だ。オブやセアラにも見せたことがないスキル。
ロイオ「(敵にならないとも限らないし、実力の底を知られるのは嫌だな……)」
ラキス「あーあ、こんなもんかい。武器を捨てて正解だったよ。異世界人の実力ってのも大したことないんだねぇ?」
幻滅したと肩を落とすラキスの様子にロイオはイラつき、舌を巻いて煽った。
ロイオ「……いィや、お前みてぇな勘違い女のプライドをどこまで崩してやろうかと思ってな」
ラキス「あ``?」
低く冷たい声でラキスは不愉快そうに初めて顔色を悪くした。その反応はロイオを得意げにさせる。
ロイオ「気を悪くするなよ、領主最強。ここから先、お前は手も足も出ねぇ」
ラキス「なっはっは! 随分と強気じゃないか……いいのかい、度が過ぎるとただの噛ませ犬だよ?」
ロイオ「言ってろ……」
皮肉にもラキスの言葉が
集中した身体から湧き出始める魔力は七色の光を放ち、四肢へと行き渡ろうと――
ラキス「オラァ!」
離れていた間合いを瞬時に詰め、前蹴りを繰り出したラキスによって、魔力の流れが止まり七色の光がロイオの体から消滅する。同時に無防備だった腹部に重なった痛みと衝撃でロイオは障子を突き破って整理された日本庭園のような美しい庭へ飛ばされた。
ラキス「
ロイオ「カハっ…………」
胃液が逆流し喉を焼く。今までと比べ物にならないほどの痛みにたまらず嗚咽を漏らしながら悶えて倒れる男に、ラキスは口元を吊り上げる。
ロイオ「……(嘘だろ……オールフォースの発動はコンマ数秒。カウンターを合わせられるはずが……)」
ラキス「それにね、アンタ、スキルに頼って戦ってきたのが目に見えてわかるくらい、直線的でつまらない戦い方してるよ」
強化されたロイオと身体能力のみで戦うラキス。二人の圧倒的パラメータの差を埋めているのは実戦経験の差だ。
領主最強という称号は、なにも領主間で競い合ったわけではない。一国の西の長として数多の戦闘を潜り抜けてきた彼女の戦闘技術は、|齢《よわい》一九の人が成せる領域を超えている。
いや、人としての能力を超えている。
それはソフィアたち領主と一部の権力者のみが知る機密事項であったが、ロイオがそう感じるのに時間はかからなかった。
地に伸びた足を曲げ、なんとか立ち上がろうとする彼に、ラキスは道場の真ん中から失望感を露わにした声を浴びせる。
ラキス「アンタはやっぱり、しょうもない犬っころ……いぃや、蛙だねぇ」
あまりにも一方的についた闘いの決着にその場にいた東の街サイドの人間は、全員等しく顔を固まらせた。
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