第115話リアルにゲームキャラにあったらついついなでまわしたくなるよね
翡翠色でクリクリとした眠そうな目を漆塗りかと思うくらい艶のある黒髪が少し隠す。緑に統一された甲冑と腰に携えた脇差しを除けば、ミステリアスな子ども。
西の領主ラキスが召喚した『玄武』がこの子どもだ。
ラキス「こいつは聖獣玄武。名はクロムだ」
クロム「……ょろしく」
『よ』がほとんど聞こえねぇ……。声ちっさいなぁ。男なのか女なのかわからねぇし。あーあー猫みたいに丸くなって、寝るつもりか?
だが、それでも。
ロイオ・ねこねこ「リアル四獣きたァァァァァァァァ!!」
高まるテンションは何時ぞやの姫騎士のときに比べて同調は少ないが、それでも忠実な近衛が主を護ろうとするくらい俺たちは興奮しきっていた。
タッチ系エロゲー(バカゲー)の匠と自称するねこねことRPG系エロゲー(泣きゲー)愛好家である俺は、目の前の奇跡を逃すわけにはいかないのだ。
匠より先に奇跡を撫でまわす。その意気込みで俺は走る。
だが、流石の匠だった。俺の一歩先を行く。テレポートで玄武の――
ねこねこ「(もらった!)」
正面に姿を見せたねこねこは勝ち誇り、玄武に手を伸ばした。が、その手が六角のバリアに阻まれたのだ。
ロイオ「(オートガードか)」
ねこねこは失念していたようだな。玄武は『Noah』に存在しないが、数多のゲームでは盾役として採用されることが多い。玄武というキャラクターは『盾』というイメージがRPG系ゲーマーにはある(無論、やってきたゲームにもよるが……)。
ねこねこ「なんのぉー!」
ロイオ「なっ!? まさかアイツ、バリアにしがみついてるのか!」
オートガードにもめげぇその下心は男として尊敬してやる。だがな……玄武は眠そうな目してるだけで身の危険を一切感じてねぇぞ。
クロム「……ぉやすみ」
ねこねこ「ぬぬぬぬ~っ!」
遂には堪えきれなくなったねこねこが弾かれる。俺はそれをキャッチして、リアル玄武に触りたい欲を一旦セーブする。
あのオートガートを破るための作戦を練るためだ! こんなことで奇跡を逃してたまるものか!
ラキス「さぁて、これで役者は揃った」
頭を悩ませる俺にゴム刀を向けてラキスは不敵に笑む。
それだけで俺は思考が止まり、背筋が凍るような感覚を味わう。今なら肉食獣に狙いをすまされた小動物の気持ちを代弁できそうなほどゾッとした。
ロイオ「……セアラがビビるのもムリねぇ」
冷や汗が止まらない。緊張し強張った身体を解そうと俺は喋った。
セアラ「ロイオ、これだけは言っておく。出し惜しみはするな」
ロイオ「人の心配するくらいなら、目の前の鉄火面を泣きっ面にしてみろ」
ねこねこ「ロイオー、玄武の撫で心地だけど三〇文字以内で教えてあげるよー」
ロイオ「撫でてから言え。オートガードを破る算段はついたのか?」
ねこねこ「うん、なんも浮かばない!」
減らず口を叩きあった三人で全勝するビジョンを思い浮かべる。勝利のイメージなんてなんの役に立つのか知らねぇが、こうでもしねぇとこの胸騒ぎは落ち着きそうにない。
領主最強が相手だ。緊張しない方が……ん、待てよ……最強。最強?
ロイオ「……ああ、なんだ『領主』最強か」
そんな限定的な最強に俺は何をビビっているんだ。
ウチには、リアルでもゲームでも世界最強を自称する脳筋がいるじゃねぇか。
ソイツに勝てないまでも善戦できるくらいには強い俺が負けるものか。
ロイオ「てめぇに、井の中の蛙って言葉を教えてやるよ」
ラキスがさっき浮かべたものと同じ不敵な笑みを返した。
それを受け、本人は楽しみと言わんばかりに獲物を構えた。
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