ストーリー5~西の領主の雨上がり~
第111話ナハート・J・ラキス
この世界に来て、一週間くらい経った。
戦闘の勘もステフォンの操作も問題ない。生活面でまだ不慣れなことはあるが、それでもこの世界は俺たちにとって楽園。
その楽園を開拓して更に謳歌したいと思うのは当然の流れだ。
マイ〇ラでもどんどん素材集めして文明を発展させていくように、俺たちはどんどんこの世界のストーリーを進めて防具や武器、アイテムを新調していき最強になる。とりあえず、この世界の目標はこんなとこだ。
オブ「…………オさん……ロイオさん、つきましたよ?」
ロイオ「……ん? おうなんだ……女神か」
セアラ「寝ぼけているにしては、正しい表現だ」
馬車に揺られること数十分、俺はどうやら寝てしまっていたようだ。
オブの言う「ついた」とは西の街に到着したということで、詰まる所新たな物語の始まりということだ。
ねこねこ「ロイオがうっかり寝なんて珍しいねー。もしかして、昨日ゴソゴソしてたから寝られなかったのかなぁ?」
意地の悪い笑顔になった俺の相棒がなんでそのことを知っているかは聞かないでおこう。ここは、冷静に大人の対応で返そう。
ロイオ「ハハハハハハハハ、なにいってやがる。そそそそんなことああああるわけねぇだろ」
はい無理でした。
ねこねこ「まあまあ、悪いことじゃないよ? 生きてればそういうことするもんだって。だからブフッ‼」
ロイオ「吹き出してんじゃねぇよ‼」
こんな男の下な話を姫様の前でしているのになんも言わないメイドに俺は違和感を覚える。数段しかない馬車の階段を降りながら俺は恐る恐る中にいるメイドに視線をやる。
セアラ「……(ごくり)」
そこに居たのは頬から冷や汗を垂れ流し緊張している様子のメイドだった。
腹でも下したのか、と思った。
でも、そんな甘いことじゃないと俺はこの後身に染みて感じることになる。
西の街の風景は、一言で言えば古き良き日本といったところだ。木材建築の街並みは時代劇の中に迷い込んだのかと錯覚するほどリアルで擬似的タイムスリップみたいに感じ。
「よぉ。やっときたねぇ、ソフィア」
やや粗い声色、口を吊り上げて歯を出して笑う嬉しそうな女。
そいつは馬車の上に乗っていやがった。
オブ「お久しぶりです、ラキスお姉様」
先に降りていたオブが頭を下げると、その女は屋根から飛び降り、回転を加えて俺たちの前に着地する。
故郷日本を彷彿させる鮮やかな紅い着物は大きく胸元と足に切れ目が入っていて、桜色の長いポニーテールは内ももまであり軽く外ハネしている。何より驚いたのはその顔だ。左目には髑髏の黒い眼帯、鼻から目下まである大きな切り傷の跡、右腕には包帯。
元の世界で言うところの中二病のような恰好だ。が、ここは異世界。中二病の根源はそういうファンタジーだ。つまり、これは本当の邪王眼の使い手かもしれない。
そりゃ、メイド戦士も緊張感出るわ。
ラキス「セアラもいつまで馬車の中に隠れているつもりなんだい?」
セアラ「……お久しぶりです。ナハート卿」
渋々といった様子でセアラは馬車の階段を降りると眼帯さんに頭を下げる。
しかしそんなセアラが気に食わないのか、眼帯さんはやれやれと言いながら何故か腕をまくった。
ラキス「はぁあ‼」
セアラ「ふっ――ぐあぁ!?」
拳を振り抜いた眼帯さんと鞘で受け止めるも衝撃で馬車に押し戻されるメイド。
なんだよこれ。
あまりの意外な行動に俺は棒立ち。あ、よく考えたら俺も似たようなことしてたっけ……セイマにイライラして。うわぁ……マジか、こんな意味不明な奴になってたのかよ俺。
ねこねこはセアラを心配して駆け寄り、オブは俺に事情を説明しようと隣に来る。
オブ「ラキスお姉様はこの
ロイオ「今、ぶっ飛ばされたぞ……って領主だと⁉」
馬車が衝撃に耐えられず横に倒れ、その中に我が弟分が飛び込む。
オブ「……それでその、ラキスお姉様は私たちにナハートと呼ばれるをすごく嫌がっておいでで……」
ロイオ「ああ、なるほどな」
要するに、他人行儀にするなと。
ねこねこ「セアラ!」
セアラ「くっ……」
ラキス「あぁん? なんだお前は?」
チンピラかってのおい。
腰を曲げて、ねこねこに顔を突き合わせる西の横暴領主。
ねこねこは珍しく、女に対して怒りを露わにしていた。
ねこねこ「お姉さんがセアラとどういう関係なのか知らないけどさ……いきなり殴るのはどうなの?」
セアラ「ねこ! よせっ――」
ラキス「ほぉ……言うねぇ、小さくてもちゃんと玉ついてんだなぁおい」
ねこねこと西の領主の睨み合いが始まる。なんでいきなり険悪な空気になるかな……ちょっとは我慢を覚えさせないとな。
ロイオ「西の領主殿、身内が失礼を言ったことは謝る。だから、そう怒らないでくれ」
ラキス「アンタ、さっきから随分ソフィアと親しそうだね。何者だ?」
ロイオ「俺……といういより俺たちは異世界から来たモンだ。悪いが
ねこねこ「……」
ねこねこは黙って俺の言葉を聞きながらセアラを抱え起こす。
コイツが怒った時は俺が止めて、俺が怒った時はコイツが止める。いつの間にか出来上がった役割分担だがかなりいい。安心できる。
ラキス「そうかい。アンタたちが……ちょうどいい」
ロイオ「何がだ?」
嫌な予感がする。
この領主の顔……ゼウスさんが戦いたい欲に駆られているときと同じだ。
あー……セアラもなんかマズイって感じの顔して必死に起き上がろうとしてるし、オブもオブでじっとしてるし……。
めんどくさそうな……。
ラキス「ついてきな。アンタたちがソフィアとセアラに相応しいか見極めてやるよ」
ほーらー。
絶対そんなことだろうと思った。
どうせこれ断れないんだろ。強制ルートだろ。
わかってますよ、やりますよやってやりますよ。
ねこねこを怒らせるなら、俺だって容赦しねぇ。
ラキス「セアラ、なんならアンタがアタシとやるかい? と言っても、弱体化したアンタじゃ話にもならないけどね」
セアラ「……私に後悔はありません。姫様を護るためにしたことです」
ラキス「そうかい。じゃあ、まとめてかかってきな」
なんの話だよ。
まあ、今はとにかくこの中二病風暴君にお灸を据えてやるのが先だ。
セアラの過去編とか始まっちまったら、また俺の出番がなくなっちまうし。
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