第110話バカがだいじにしたいもの
山田「ふぃー……つっかれたー」
ゼウス「お前は終始エルフに鼻の下を伸ばしていただけだろう?」
山田「可愛いんだからしょうがねぇだろ!」
ギルドでクエスト達成の報告が終わってゼウスと合流した俺はエリーちゃんとの別れを惜しみながらも
はぁーディナーでも一緒にしたかったのによー……。
街道を歩きながらエリーちゃんの笑顔を思い出すと自然に顔が緩んじまう。
山田「……まじ天使……」
ゼウス「キモい……それと、奴は天使ではなくエルフだ」
山田「あの魅力がわかんねぇたぁ、お前も見る目がねぇな!」
ゼウス「山田の分際で……ふんっ!」
山田「イっタァイッ‼ ゼウスてめぇ、いきなり頭しばくんじゃねぇよ!」
ゼウス「グーじゃなかっただけ感謝するんだな」
腕を組んで偉そうにしだしたゼウスは何やら防具屋の前で立ち止まった。
いつも「防具などワンパンすればいらんだろう?」とか言ってる奴にしては様子が変だぜ。
山田「おいおいどういう気まぐれだよ……まさか防具ほしいのか?」
ゼウス「……山田、今回の報酬でこの店の防具を買ったら生活に支障はあるか?」
え……ガチじゃん。
山田「あ、ああー、まあ大丈夫だぜ。領主のねえちゃんには分割払いで支払うつもりだし、貯金もまだ余裕はあっからよ……しばらくは――ってもう店内入ってやがる⁉」
人の話は最後まで聞きやがれってんだよ!
まったく……とか思いつつ、続いて店内に入る俺。
自己中な連れを持つと苦労するぜ。ま、子分一号の座は誰にも渡さねぇけどな!
※
って思ってたんだよな。ついさっきまでは。
ねこねこ「へー、脳筋木偶のぼうのゼウスも防具とか興味あったんだー」
ロイオ「歴史が……動くぞ!」
ゼウス「貴様ら死にたいならいつでも介錯をしてやるぞ?」
山田「はいはい。その手に持ってる頭が尖がった兜は置いてくれアニキ」
こんな簡単に仲間を殺めようとする男、嫌いだぜ!
山田「で、なんでおめぇらここにいんの?」
ロイオ「明日、西の領主に会いに行くからな。セアラが武器の一つでも新丁してこいだと」
ねこねこ「お金ももらったよー」
ゼウス「なぜ防具屋にいる……」
ロイオ「お金余ったんで」
至れり尽くせりだな……領主のねえちゃん、こんなに贔屓してて大丈夫なのかよ。
ゼウス「……その金、少し分けてもらうことはできないか?」
ロイオ「いいっすよ。ねこねこが駄々こねる前だったんで助かります」
ねこねこ「今から地面をぐるぐる回ろうと思ったのにー」
山田「店に迷惑だからマジやめろ!」
大声を上げた俺に店番のあんちゃんが一重の鋭い目つきで睨んでくるが、ゼウスと比べるとチワワくらいカワイイと思えてしまう。
ゼウス「……山田、防具を見繕ってくれ」
山田「へいへーい、武器は詳しいけど防具の知識からっきしだもんな、お前」
ゼウス「黙れ。攻撃力とHP上昇効果があるのが望ましい」
ロイオ「そんなの序盤の防具屋に置いてるわけないじゃないですか」
山田「それな」
ねこねこ「ねぇ、二人とも……店番のおじさん睨んでるよ?」
ロイオ「おじさんって言ったお前もな」
チワワからブルドッグ並みにしわしわに眉を寄せ始めたおじさん(笑)のことなど気にせず、ゼウスは防具の性能をただひたすら見比べている。
こいつがこんなに真剣に防具選ぶなんてなぁ……一回死んだのか?
山田「ゼウス、おめぇさ……また死んだのか?」
この時の発言を俺はたぶん、十年は誇りに思うだろう。
ゼウス「ああ」
長い付き合いの俺でも見たことがないような充実した顔のゼウスを見たんだから。
ま、皮肉五・心配五の割合なのは内緒だけど。
ロイオ「お前、明日別についてこなくてもいいんだぞ?」
ねこねこ「え? ぼっちが何か強がってるんですけど」
ロイオ「このヤロウ……オブたちにはもう馴れたからな。お前もこっちに残った方が楽だろ?」
ねこねこ「うーん……」
ロイオ「歯切れが悪いな」
ねこねこ「セアラとセイマ、どっち攻略しようかな……」
ロイオ「どっちもやめとけ。燃やされるぞ」
ねこねこ「はっ、両方いけばいいんだ!」
ロイオ「俺、帰ってきたら灰の掃除しねえといけねぇかもな……」
仲のよろしいこの二人がこんな風にバカみてぇな会話してんのも、ゼウスが闘いのことしか頭にねぇ戦闘狂でも、俺にとっちゃ変わってほしくねぇ光景なんだよな。
だから、この光景を護るためなら他の人に忘れられちまっても気にしねぇ。
この『
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