第112話マイブラザーはいじられたくない

 西の街サイメーを悠々闊歩する西の領主ラキスに領民たちはすれ違う度に立ち止まり一礼をしている。


ロイオ「まるで将軍だな、アンタ」


 口をついて出た一言は隣を歩く我らが東の領主を焦らせてしまったようだったが、将軍は意外なことに笑い飛ばした。


ラキス「なっはっはっは! 面白いこと言うじゃないか。そういう解釈もあるもんなんだねぇなっはっはー!」


 さっきのおっかない雰囲気はどこへやら。俺は近所のおっさんと話しているような気分になってくる。

 めっちゃ笑うやん……この中二病……。おっさんの高笑いにも負けない声量を出しながら、ラキスは俺ではなくねこねこに右目を向ける。


ラキス「アンタもそんな気ぃ張ってないで、笑ったらどうだい? アンタたちは今、『東』を象徴してるんだ。そんな怖い顔してたら、東の街まで怖いとこってなっちまうよ?」


ねこねこ「……なんかムカつくけど、言ってること間違ってないんだよねぇ」


ロイオ「極論ではあるがな……そうだ、ねこねこお前さっきセアラの胸触ろうとしてなかったか?」


ねこねこ「え?」


セアラ「なっ⁉ なんだと、貴様ァァァ‼」


 赤面したメイド戦士はいつもの冷静さをなくして、俺のウソに踊らされる。まあ、弁解できないほど普段の行いが悪いねこねこが悪い。


ねこねこ「ちょちょちょっと待って! さっきはそんなこと微塵も――」


ロイオ「『さっき』はってことは『いつも』は触ろうとしてるってことか」


ねこねこ「ロイオ⁉ いい加減にしてくれないかなっ⁈」


セアラ「空に逃げるな、この不埒者!」


 剣を抜いたセアラから必死に逃げるべく、白衣の賢者は飛んだ。


ラキス「なっはっは、いいねぇ。あのクールなセアラが真っ赤になってるよ!」


 実に楽しそうに足を止めて眺める西の領主は、空を飛んでいるねこねこに驚きもしない。

 なるほど、空を飛ぶのそんなに珍しくない、と。

 ならもっと焚きつけよう。


ロイオ「おいおい、マイブラザー。いくら小さくて見えないからってそんなに高く飛んでまで二人の領主様の胸をみたいのか?」


 オブは以前、別荘の下見に来た時と同じ水色のドレスだ。豊満な胸部の主張がすんごい。風呂場で拝んだおっぱい神が、からかっている俺まで誘惑する。

 西の領主さまも肉付きは薄いもののれっきとした女。おまけに着物ははだけてるからオブよりも色っぽく映る。


セアラ「おのれ……私だけならいざ知らず、姫様方まで……どこまで女を愚弄すれば気が済むんだこのクズがっ!」


 怒りが頂点に達したメイド長は剣に炎を纏わせて斬撃を天へ飛ばした。


ねこねこ「わっ⁉」


 俺の予想通り、ねこねこはセアラの炎の斬撃を瞬間移動テレポートで回避。

 さて、どうだ西の領主さま。俺の相棒は珍百景と肩を並べるぞ?


ラキス「へぇー、テレポートまで使えるんだねぇ……こりゃあ楽しみだ!」


 チラ見してる俺のことに気付いてる素振りもなく、ただただ楽し気に西の領主をそう言った。

 こいつ……一体なにしたら驚きやがる……?

 ねこねこの瞬間移動が希少なものなのは本人が鼻高々に自慢してきたから知ってる。それも世界に僅かしかいないという噂の賢者が目の前にいるというのに。


ロイオ「……」


ラキス「解せないって顔してるねぇ」


ロイオ「気づいてたのか……?」


ラキス「セアラとあのチビ太郎をぶつけて、アタシに自慢したかったんだろ?」


ロイオ「食えない奴だな、アンタ」


ラキス「それはお互い様だよ。まあ、これからじっくりとお手並み拝見させてもらうからいいんだけどね」


 足を止めた領主は、俺に向き直って不敵に笑うと大きな武家屋敷の中に入っていく。

 ここか? なんか言ってくんねぇかな……わからん。怪訝な顔してると後ろから女神が声をかけてくれる。


オブ「ロイオさん、ここで合っていますよ。大きな道場があってラキスお姉様の修行の場です」


 事情に詳しい女神オブがいなきゃ、俺は後ろの真っ白しろ助連れて帰ってるとこだ。


ロイオ「そうか、悪いなオブ。で、あのミス・ピンクは何しに行った?」


オブ「ふふっ……管理人さんにご挨拶をされにいったのではないでしょうか?」


ロイオ「管理人……」


 そういや、領主ってセレブだったな!

 管理人とか一般人が関わるの施設使うときくらいだぞ。

 くそっ、金持ちは嫌いじゃボケェ!


ラキス「待たせちまって悪いねぇ。今、話つけてきたから入りな」


 俺が殺意を募らせながら木の門を睨んでいたところ、帰ってくるセレブピンク。

 すっと殺意を隠した俺は、髪の毛先が焦げたねこねことイライラを発散してスッキリしたセアラを呼ぶ。


ねこねこ「……(じ~っ)」


ロイオ「どうした、マイブラザー?」


 小柄な(俺の胸までくらいしかない)弟分が大きい目を細くして下から睨み付けてくるので、笑顔で受け入れる。

 やっぱ兄貴分たる者、度量がねぇとな笑


ねこねこ「後で覚えててよ……」


ロイオ「イチャイチャできたんだから良かったろ?」


ねこねこ「ぼくの知ってるイチャイチャじゃなかったよ⁉」


セアラ「おい、ロイオとシロスケベ。さっさと入れ」


ねこねこ「いやだーその呼び名!」


セアラ「クズと変態とシロスケベから選ばせてやろう」


ねこねこ「まともに呼んでよ……」


セアラ「シロスケベ」


ロイオ「ぶふっ!」


ねこねこ「吹き出さないでよロイオっ!」


 ねこねこの蔑称が更新されましたー。

 ねこからシロスケベに進化しましたー。

 みなさんもこの白いの呼ぶときは是非とも「シロスケベ」でお願いしまーす。

 なんなら、「シロ助平」でも可でーす。


オブ「シロスケベさん……ふふっ」


ねこねこ「……ぼくいじられキャラなんてなりたくないよぉ……」


 安心しろ。誰も望まれてなってるわけじゃねぇから。 

 自然となってるから。

 いつまでも、可愛がられると思うな。

 
















 奏の分は可愛がってやるがな。

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