第86話たたかいのあいだに
『ねこねこの立場を奪いたくない。
今のアイツは、ゲームの中に自分の存在を確立させてる。
俺はアイツのこれからと今を支えていきたいんだ。
例えそれが、仮想だろうとアイツが夢中になれるモノなら俺はそれを横で見守る』
人気のない喫茶店で、いつになく真剣な眼差しで訴えかけてきたその顔付きは実兄のようだったのをよく覚えている。
『Noah』を始めて、転職できるようになった頃から俺はパーティメンバーと会うようになっていた。年上というのもあったのだろうが、こういった真面目な相談を受けることが多々あった。
魔法使いは上位転職先が豊富な初級職の一つ。
しかし、やはりどれも魔法という観点では当時のねこねこの職業『魔導士』と似通ってしまう。元が同じなのだから仕方のないことなのだが、ロイオはねこねこより遅く転職時期になった。そのせいで、余計懸念してしまったのだろう。それで、前衛の役割をこなせる魔法剣士に行き着いたものの、魔法剣士も魔法主体の職業。
スキルは目ぼしいものがわずかにあるだけで本業の魔法には火力で劣る。
ゼウス「俺がたまたま、裏スキルの情報を入手していたことが幸いだったな」
そう。たまたま、どこぞのショタネカマから得た情報だ。
その時の言葉は誰かと似ていたのを覚えている。
『この情報はロイオにだけ教えてあげて。
きっとぼくのために自分を曲げたり、不利益なことだって……無茶なことだってする。
ぼくにはそれを止める資格も権利もない。
でも、本音を言えばそんなことしてほしくないんだ。
だから、ゼウスから伝えてほしい。
ぼくから、っていうのは伝えずに……』
ゼウス「まあ、おかげで我がパーティに優秀なバフ兼アタッカーが誕生したわけだがな」
幻想獣をじわじわと圧倒し始めたロイオと苦い顔をしだしたねこねこ。
ロイオの優勢に若干の不安を抱きながらもゼウスは表情を崩さない。
ゼウス「前衛の核である俺が単独でボスを倒せたのもロイオの存在があってこそだ。競争心が生まれた俺は最強に拘り、レベル上げと技術力向上に没頭したものだ」
あの時は焦っていたな、と過去の自分を嘲笑した。味方が強くなればそれだけ攻略の速度も精度も上がるというのに、何を張り合っていたのだろう。
最強であることに拘るのはソロであった時まで。仲間が出来た今、ソロでいる必要はどこにもない。
それに……安らぎを覚えてしまった今の俺ではもう修羅にはなれない。
ゼウス「俺がこんなことでは、またあのバカが怒るな……ハッハッ」
独りでに笑だすと、遂にロイオがねこねこの上級魔法を消滅させた。
ここからの戦闘の流れ次第では途中で割って入る必要もある。
ゼウスは急上昇する魔法剣士と杖に魔力を込め始めた賢者を視界に収めたままアキレス腱を伸ばした。
これから始めるであろうケンカの抑止に備えての準備運動。正直ちゃんとした準備運動と素振りなどもしたいところ(現実にきて準備体操の大切さを思い知った)ではあるが、いつそうなるかわからないためこの程度しかできない。
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