第85話きょうだいげんか(おとうとのおもい)
ロイオ「キルハ、ウルキルハ、グレーターフルキルハ!」
戦闘開始の合図と同時に駈け走り、三段階強化したロイオの攻撃力は狂戦士であるゼウスのそれと同等だ。
加えて、MP自動回復とスピードも超強化された今の魔法剣士は最速にして最攻。
右手に持った懐かしの棒はいつも通り、雷電を纏う。
スキルの射程圏内になる刹那、ねこねこの構えていた杖に膨大な魔力が込められる。
ねこねこ「
アンデットの大群や強モンスターを氷柱としてきたねこねこのフェイバリット魔法が荒れた高波のように放たれる。
初手から詠唱破棄の上級魔法で奇を衒う賢者。
しかし世界ランキング上位の魔法剣士は揺るがない。
敏捷性が跳ね上がった近接戦を望む者がまず距離を詰めようとすることを見越して、ねこねこは最大火力を撃った。さらにこれを堪えきっても、追撃の魔法を控えさせている。
この思考を始終まで読めたのは兄貴分として長い月日を共に過ごしたロイオだからできたことだろう。
ロイオ「『
フォーススキル裏盤の特殊アシストであるそれは同時に二つのフォーススキルを使えるというものだ。
電撃を纏った枝は火炎の渦を融合し、ロイオの振り抜きによって発射される。
ロイオ「フレイムサンダーフォース!」
青い雷と灼熱の炎が螺旋に絡み合いながら冷気の高波と衝突。突風を散らし、荒野の風景をより荒んだものへと変えた。
凸凹や瓦礫、クレーターを残して災害級の二つは消え去る。
雲に覆われていた天は失せ、月明かりをより鮮明にした。
ねこねこの姿がないことに気付いたのはそのおかげだったと後になってロイオは思う。
ねこねこ「
突如として頭上から冷却の攻撃がロイオを襲った。
しかし、ロイオは凍てつく身体に黄緑色のオーラを広げる。
ロイオ「マジックハイシール」
冷気の奔流に身を揺らしながら、自らの肉体を覆う魔法対抗の防壁はロイオを護る。本来なら凍結などの状態異常に陥っていたかもしれない場面ではあるが、今回はそうならなかったことに若干の安堵があった。いや、それすら見越していたかもしれない。
ロイオ「まったく……お前ってやつは、不意打ちしかできねぇのかよ。だから俺にアクションゲームで負けるんだよ」
ねこねこ「そう言いながら避けられないんだからロイオって間抜けだよねー。だからぼくにカードゲームとか戦略ゲーとかギャルゲーで負けるんだよ」
ロイオ「ギャルゲーは関係ねぇだろ!」
ねこねこ「ゲームにかわりないよーだ」
ロイオ「ふん……俺は勝たせてやってるんだよ」
ねこねこ「負け惜しみおつー」
ロイオ「てめぇ……そのバカにした面やめろ‼ エレクトリックアクアフォース!」
空中浮遊した賢者に向かって、電撃を内蔵した高圧水流を射つ。高速のそれをテレポートでいとも容易く回避したねこねこはロイオからは見えないほど高い空中まで昇る。
ねこねこ「いつも思ってたよ。お姉ちゃんと勝負してちょっと悔しそうに言うその台詞にはね――」
ねこねこは三日月を背にして悠々と詠唱を始める。その声色は今回問題となった兄への怒りを宿したものではなく、親友を宥めるかのように穏やかなもの。
「流れる黒雲 青陵、深緑、赤壁を乱すは幻想なる獣 鎖に繋がれた愚かな人民よ 惑いて止まれ、そして聞き澄ませ――――」
纏う純白の衣とは真逆の暗雲が密集を始め、それらはねこねこの長杖に引き寄せられていく。暗黒の物体は青白い閃光を迸らせると、ねこねこの号令に従う。
「
漆黒の積乱雲から駆け降りるように駿馬を象った巨大な雷撃が地上へ差し迫る。
ロイオ「……あのやろう、どこへ行ったかと思ったらそんなところに」
豪雷は音よりも速い。が、放たれる以前――星月夜に暗雲が漂い始めた頃にロイオはそう呟いていた。そして、 雷が発生しだすと空高く浮遊している賢者へ吠えた。
ロイオ「お前がする下らねぇことは、全部捩じ伏せてやる! オールフォース!」
最強の技を発動させた魔法剣士は磁力と重力を操作して空へ飛翔する。これから起こる上位魔法のことなど意に返さずに。
雷雲と幾色のオーラを纏ったロイオが雲内に侵入する刹那のとき、駿馬は駆けおりだした。
ロイオ「ッ!!」
自らも雷撃を宿し、身の丈十倍ほどの雷獣と激突。
ねこねこは魔法のエキスパート。スキルの位階については並み程度の知識しか持たない。故に自分が特化した上位魔法が一介のスキルに押し負けるなど到底考え及ばない。
一方、ロイオは魔法について『Noah』で得られる限りの知識があった。それは魔法剣士として何かの特化型になるか万能型になるかの選択に備えてのことだった。これから自分がパーティの一員としてどうあるべきか、悩んだ時期に裏スキルの存在を一欠片ながら掴んだ。その結果今のスキル属性万能、兼バフ役という立ち位置を得たわけだが。
ゼウス「ロイオ……お前が一番悩んでいたのは、魔法職がねこねこと被ることだったな」
稲妻と最強の魔法剣士となったロイオがぶつかり合いお互いの消滅を互角に競っている中、ゼウスは離れた岩場の上で戦いを傍観している。
見るだけでは暇だと言いたげな様子で腰に手を当てて、兄弟のような信頼を双方ともに抱いている二人に目をやった。
そんな二人の譲れない頑固なケンカを眺めていると、社会人一年目の時、年上として相談されたことを思い出すゼウスだった。
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