第80話い、いけめんだとっ!?

セアラ「セイマ! 客人だ、出てこい!」


 屋敷に入るなり、セアラが誰かを呼んだ。さっき言ってた執事のことだろう。

 セアラが呼ぶなり、階段から誰かが歩いてくる。

 足音が階段の途中で一端止まり、姿が露になる。俺と山田はその容姿に声を荒上げた。


ロイオ・山田「「い、イケメンだとぉぉぉぉぉぉおおおおおお!?」」


 予想の斜め上を突き抜ける絶世の美少年だったのだ。

 セアラより少し長い流れるような艶々な黒髪は後頭部の真ん中より少し上でゴムに結ばれてホストらしい髪型だ。二重の大きな瞳は少し赤みを帯びており、ミステリアスな印象を与える。シュっとした綺麗なアゴのラインが凛々しさを加えて、益々己の貧相な顔を隠したくなった。

 イケメンについてあんまり言いたくないからこの辺にしとくが、取り敢えず滅多に見れない高レベルなイケメンだ。


セイマ「久しぶり、姉さん」


 清流のような透き通った声がその小さい口から発せられた。驚きの事実が。

 

ロイオ「ね、姉さん⁉」

山田「そういわれると似てるな!」


 セアラの方にこぞって顔を向けると何故か悩ましいように頭を抱えていた。


セアラ「……ハァ……私はお前の上司だぞ? 客人もいる。言葉遣いには気を遣えとあれほど言っただろう?」


セイマ「でも、その人たちソフィア様のお気に入りだろう? だったら変に気を遣わない方が親しみも持てるよ」


 姉の苦労って弟には伝わらないもんなんだよなぁ……。

 階段を降り切ったそのイケメンは俺たち二人に対して、品定めするような疑いの眼を向ける。

 じっくり足の先から頭のてっぺんまで姉譲りの鋭い目が観察してくる。俺たちは手汗や脇汗を滲ませながら成されるがまま。


セアラ「ずっとここの管理を任されているお前が、なぜこいつらのことを知っている?」


セイマ「色々ツテがあってね……それより、お前たちが今日からこの屋敷に住むのか?」


 使用人の割に随分上からくるなオイ。セアラでももう少し丁寧だぞ、セアラでも。

 いや、これはこのイケメンの気遣いか……親しみがどうこう言ってたし。

 ならここで腹を立てるのは……器量が小さいな。これから世話になるかもしれないんだ。穏便に行こう。


ロイオ「ああ、たぶんこれから世話になる。俺はロイオ、こっちの赤いのは山田」


山田「よろしくだぜ!」


セイマ「ワタシはセイマ。セアラは一つ上の姉だ。この別荘の管理を任されているから、なにか困ったことがあったら言ってくれ。家事は使用人としてワタシが責任を持ってやらせてもらう。給料については後日でいい」


 スラッとしたモデルのような体型とハキハキとした言葉。ああ、これがイケメンか。

 自己紹介一つで女子の心を掴みそうな雰囲気。ああ、これがイケメンか。

 仕事まで責任をもってやると言い切るその人間性。ああ、これがイケメンか。

 気遣いができる。


ロイオ「ああ、これがいけめ――」


山田「ロイオ、それは口に出したらダメなやつだ。俺たちが認めちまったら、この執事が男女問わずのモテ男ってことになる」


 顔面を近付けて、山田は俺の両肩に力強く手を乗せてくる。

 ウザい離せバカ。俺が悪いのかもしれんが、邪魔でウザいぞバカ。気持ち悪い。

 ウザす山田の腕を掴んで、くっつけるように身体の内側へ。

 小癪にも抵抗してくる。


山田「おいおい、ロイオくーん? 君はなーにをし――」


ロイオ「邪魔な腕を束ねて切り落とそうかと」


山田「ダメに決まってんだろ‼」


ロイオ「おいおい、山田くーん? 抵抗するなよ、キレイに骨を割ったら前より丈夫になるという説があるんだぞ」


山田「俺、一応年上だからね⁉ ロイオにそんなの出来る訳ないって知ってるからね⁉ だってお前、剣ないもん! 素手でへし折る気満々じゃねぇか!」


ロイオ「レッツチャレンジ」


山田「ヤダよ!」


 自称年上(笑)は乗せていた手を素早く下ろす。

 最初からそうしろ、ハゲ。


山田「ハゲてねぇし!」


 俺の目線で言いたいことが伝わったようで、薄くなる予定の頭皮を押さえながら盛大に否定を飛ばしてくる。

 通例のイジリを前に観客のセイマくんは口元を手で押さえていた。


セイマ「……ハハッ」


 二枚目の微笑みはさぞ、キラキラだろう。と思ってその顔を探るが、微妙に嘲笑っぽかった。


セイラ「……私はもう行く。セイマ、案内を終えたら今日はその二人を泊めてやってくれ。姫様のご厚意だ」


 弟の笑みをチラ見したセアラの姿が視界から消えていく。久々に会ったんだからもっと会話なりハグなりゲームなり近親そ――なんでもありません。


ごほん。


 俺が言いたいのは、俺たちに気を遣わず、もっと姉弟水入らずを楽しんでもいいんだぞっていうご厚意です。

 屋敷の扉にセアラが触れようとした時、その弟が姉の背中へ言葉をかける。


セイマ「ソフィア様とケンカした?」


 ピタリと動きを止めたセアラを見て、味を占めた執事が続ける。


セイマ「モンスターの襲撃がついこの前あったのにソフィア様に護衛をつけずに、一人で外をうろつかせるのは変だよ? あんなに仲が良かったんだから。近衛、兼メイド長までやってる過保護な姉さんらしくないよ?」


 嫌味を含んだ言い方だ。

 こっちまでイライラしてくる。

 外野の俺がそうだというのに、当の本人は無言で出て行った。


セイマ「図星だな。早く仲直り出来るならいいけど」


 なんだろう……さっきまでは良いイケメンだと思っていたから気にならなかったが、今のこいつは気に食わない。



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