第79話ぶっけんのしたみ

 セアラに連れられて俺たちは小綺麗な屋敷の前にいた。

 『俺たち』というのは、俺ことロイオと山田のことだ。

 残りの真っ黒狂戦士と真っ白賢者のモノクロコンビは山田がやった役割分担でクエストに行ってる。理由は、単純に金を稼ぐためだ。

 オブが家を譲ってくれそうな話だが、それに甘えるのも男としてあまり良くないと思い、分割払いで話を進めようと考えている。

 物理攻撃、魔法攻撃のスペシャリスト二人はこういうのには向かないしな。厄介払いってやつだ。

 一方、俺と山田は四人の中でも比較的社交性有りの二人。(自称)は付くがな。

 俺は家事を熟してるし、山田は我が家の金銭管理を担っている。

 俺が家事をしてるのは……察してほしい。

 山田はバカではあるが、数字には強い。元の世界で、俺と山田とゼウスさんのバイト代とねこねこの仕送りを合わせて管理していたのはこのバカだ。

 ……隣で大声で感嘆してるバカを褒めるのは、なんか嫌だからこの辺にしとく。


ロイオ「山田、さっきからうるさい。屋敷がデカくてすごいのはわかるけど、そう何度も、デケースゲーを連呼されたらイライラする」


山田「へへ、わりぃ。でもよ、こんな屋敷くれるって領主のねえちゃん、イイ子だよなー」


ロイオ「まあ、優しさの塊みたいな奴だしな」


 レンガの外装、窓の数からしてかなり部屋の数は多いだろう。外壁もあって、玄関までの道には植木が数本。

 どこかの貴族の屋敷とはこんな感じだろうな。アニメとかで覚えてる。まあ、全額ただは流石に申し訳ないから分割払いは確定だな。


セアラ「お前達、口を閉じろ。姫様のご到着だ」


 鋭い眼光で俺たちを黙らせる近衛。あーこいつ、取り敢えず山田は睨むって感じだなー。まあ、口をきいてストレス溜めこむより全然いいけどな。

 俺がセアラと山田を分析している間に馬車から降りたのはこの世界ゲームのメインヒロイン。

 以前の純白のドレスと違い、今回は少し青の入った水色のドレスだ。胸元が開いた構造になっていて豊満な胸部を強調している。白いロング手袋で腕を隠してはいるが普段の鎧姿では拝めない華奢な腕。首元にはネックレス、頭にはティアラ。


 今回は完全にお嬢様……というかお姫様だ。


オブ「お待たせしてしまって申し訳ありません」


 優雅に一礼するオブ。セアラはオブの隣まで歩くとその一歩後ろに陣取る。従者の位置というやつか。


ロイオ「そんなに待ってねぇよ。それより、今日は一段とヒロインだな。バカが鼻の下どころか顎まで伸ばしてるぞ」


山田「いやー眼福! ありがたやーありがたやー」


 オブの胸に向かって合掌してるバカへ殺気を放ってるセアラに代わって俺が殴っておく。

 山田を黙らせて、困り顔のオブに先を促すよう目配せする。


オブ「で、では早速この屋敷について説明させてもらいます。ここは私の別荘で、家賃はいりませんが使用人が一人いるので、その方に給料をお願いします」


ロイオ「一人でここを……? いや、家賃もそうだが、金は払うぞ!」


セアラ「ここの執事に屋敷の管理を全て任せてある。そういった話は姫様ではなく、その執事としてくれ」


山田「執事かぁ……メイドが良かったなぁ……」


オブ「…………ごほん、どうでしょう、中をご案内しましょうか?」


ロイオ「……いや、お前も忙しいんだろ? 後は俺たちで見とくよ」


 馬車の運転手が腕時計をチラチラと確認してるのが丸見えだ。

 この次にまたどこかへ行かねばならないんだろう。


オブ「本当にすみません……では、後はセアラにお任せします」


 最後まで行儀の良さを崩さなかったお姫様が近衛を置いていくだと?

 百合百合なあんたたちが、今朝もそうだ。セアラだけ俺たちを訪ねて……領主として忙しいとかか?

 近衛の方も、目を合わせないで一礼して終わり。ホントにどしたの?


 いつものお前らじゃないぞ。もっと百合百合しろよ。

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