第81話ためしにとまったべっそうはさっそく、、、
一通りの設備の案内が終わり俺は一息ついていた。
ねこねことゼウスさんは案内が終わって、すぐ山田が迎えに行ったし、もうじき帰ってくるだろう。
今、この広い屋敷には俺とイケメンしかいない。
静まり返ったリビングでフカフカの椅子に座っている俺の真ん前にティーセットを持ったイケメンが座った。
セイマ「紅茶は飲めるか?」
ロイオ「……いや、まあ少しは」
セイマ「そうか」
白いマグカップに湯気の立った茶を淹れてくれるイケメンだったが、俺の微妙そうな反応に苦笑いだ。
しょうがないだろ……人見知りなんだから。
山田め……なにが「留守は任せたぜ!」だ。無理やりこういう状況に押し込めやがって……。帰ってきたらマグカップを口の中にねじ込んでやる。
苦しむ姿を想像したら楽しくて、手に力が入り、カップが震え出す。
セイマ「……不味かったか?」
ロイオ「いや、まだ飲んでねーよ」
不安げに訊いてきたから思わず即答しちまった……。
セイマ「ハハッ、そうだな。すまない」
ロイオ「……お前さ、その作り笑い……不快だから止めてくれねぇか? 俺一人の時だけでいいからよ」
セイマ「……作り笑い、か」
謝る気持ちがないという心意を見抜いたつもりで言ったんだが、このイケメンはなぜか物思いに紅茶に映った自分を見ていた。
セイマ「そうだ、おま……ロイオは兄弟とかいるのか?」
気安く名前を呼ぶな、と言いたかったが姓も名もないことに気付き、スルーする。
話題の転換。
世間話でもして空気を和ませようとするイケメンの気遣いは俺に向けられているのか、自分のためなのか判別つかない。
紅茶に口をつけてから俺は答える。甘い高貴な香りと男同士というのもあって緊張はすぐ緩んだ。
ロイオ「血は繋がってないが、弟みたいな奴はいる」
セイマ「へぇ、どんな人なんだ?」
ロイオ「女好きのショタっこ」
セイマ「こ、個性的だな……ワタシの姉さんをどう思う?」
ロイオ「普通にいい奴だと思ってるぞ。忠誠心もあってしっかり者、女好きのアイツが気に入るくらいの容姿。非の打ち所がないな」
おまけにレベル二〇代の割りに強い。
俺たちがレベル一五で止まってたら、まず勝てないと思う。オールフォースを使った俺と直接戦闘能力が高いゼウスさんなら勝てるかもしれないが、確実に勝てるとは言い切れない。それだけの実力がある。
セイマ「かなりの好評だな。あんな姉さんが……」
ロイオ「……あんな?」
セイマ「魔導士として高い地位にいながら、レベル一の戦士に転職。責任を持ちたくなかったんだよ。魔導学校主席の称号も今じゃただのお飾りだし」
アイツ、元凄腕魔導士だったのか……そういえば、面接した時に魔法を使えるって言ってたか。なんでそんな有能だった奴が今更、魔法が使えない戦士なんかになったんだ?
この弟が言っていることは間違っている。
疑問が浮かんでもそれだけはわかる。
あの近衛の人間性を知ってるから断言する。
セアラはそんな逃げるような理由で転職なんかしないだろう。一八〇度戦闘スタイルを変えることの苦労がわからない奴じゃない。
ロイオ「……」
セイマ「おまけにソフィア様とケンカなんかしてさ、昔みたいな友達関係じゃないんだから……ホントに困った姉だよ」
黙って話を聞いてやると、セイマは呆れ半分に姉への不満を続ける。
愚痴を聞くのは慣れてないし、顔に不快感を出さないようにするだけで手いっぱいだった。
俺としては、別にこの姉弟がどういう関係とか主従関係の縺れとかどうでもいいし、首を突っ込む問題でもないと思っている。
ただ、
セイマ「大変な弟さんを持ってるロイオが姉さんを高く評価してるのは、ひょっとして同じ兄、姉としてとか――」
このべらべらとよく動く口をぶん殴りたくなっただけだ。
机に片足を乗せて衝動に従い、この二枚目を殴り飛ばす。
暖色系の壁に穴を開けて、隣の部屋へ移ったイケメンは切れた唇とよろめく立ち姿を晒す。
ロイオ「もうその口開くな、イケメン」
何が起こったのか理解できていない表情で口元を拭う二枚目。
自分が殴り飛ばされたと理解できたのか、恐る恐る問いかける。
セイマ「なにが気に食わなかったんだ?」
ロイオ「……ハァ……わからねぇか」
壁越しで酷く馬鹿にした素振りがセイマの癪に障ったようだ。
セイマ「何を言いたいのかしらないが、いきなり殴るのは理不尽じゃないか?」
穴の開いた壁をくぐり、俺の懐に入って掌底を腹部に叩きこんでくる。
舐め切っていた俺はそれを避けられなかった。なんとか堪えて椅子を巻き添えに衝撃で地を滑る。
椅子は壊れたが、俺のダメージは薄かった。
ロイオ「ハッ……この程度の攻撃しかできねぇクセに自分の姉貴をバカにしてんじゃねぇよ!」
自分が正しいと思っていたんだろう。
俺の嘲りを受けた近衛の弟はその端整な顔が引き攣っている。
顔ばかりではなく、動いた腕は腰に手を回した。
次に俺の視界に映ったのは、拳銃を握って伸ばされた腕だった。
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