第59話こうりゃくぼん

アンベルク・オブ・ソフィアが領主として治めている街があるのは、ミフラ王国の最東端。そしてミフラ王立図書館は王国の中央よりに位置する。

それ故、街の危機が知られるのに多少時間がかかる。

これはねこねこが冷たい肉体になる前の話である。


***


ねこねこ「……日本語がメインになってる……これどこで手に入れたの?」


分かりやすいこの世界特有のモンスター攻略情報と世界地図、そして、最も欲しがっていた情報――『レベルキャップ』解除の条件。

これらの情報入手にねこねこは湧き上がる喜楽の感情を抑えられなくなっていた。

一方セアラは分厚い本を抱いてねこねこに見せておりねこねこの心拍の高まりも感じていた。それは彼女も同じだ。飛べないセアラは飛べるねこにお姫様抱っこされていたのだから。


セアラ「(……おのれ……いつまでこのような恥ずかしめを……ねこめ……)」


主に怒りがメインだったが……。


アラン「その本はねこの前領主たちのとこに来たっていう占い師が私に預けていったの。「来るべき者が来たら、渡してやってほしい」って言われててね。あなたのことでしょ? 私でも難解な異界の言語を読めるんだから」


微笑みかけるメガネ才女。ねこねこはいつものように愛くるしい笑顔を向ける。


ねこねこ「アランおねえさん、セアラをお願い。ぼくちょっと読書してくるー!」


抱いていたセアラを同じく浮遊するアランに預け、ねこねこは離れた場所で漂いながら『こうりゃくぼん』を黙読し始める。


中でも、現在最も興味が向く『レベルキャップ』の項目を重点に。


ねこねこ「……解放条件……これってアリなの……」


そこにあった文面はねこねこの想像していたものの中で最悪なもの。


『レベル上限解放・死した後、生き返る』


通常の賢者であれば、なんら問題ない一文だっただろう。蘇生魔法は上級魔法だが、賢者ならば習得が可能であるからだ。

しかし、ねこねこは超攻撃型賢者であり、習得魔法及びスキルは雷電・氷結属性魔法、魔法強化、詠唱破棄、リキャストタイムの短縮等。回復魔法は初級の『ヒアリー』のみ。このことにパーティーメンバーから責められたことはあっても否定はされなかった。


ねこねこ「…………」


額から冷や汗が噴き出すねこねこは究極の選択を迫られているのだ。


ねこねこ「…………こっちに来て溜まったSPスキルポイント……ホントは新しく出たやつに使い切りたいんだよねぇ……」


レベル一五に到達してEXPを確認した時に、発見した新たなスキル。

『超級・氷属性魔法』

『超級・雷属性魔法』

二つの属性の上級魔法はカンストしていた。それがこの世界に来て上位のスキルが現れたのだ。超攻撃型賢者のねこねこにとってこれは嬉しいもので、SP全振りを即決したほどだ。

しかしながらレベル上限解放は仲間の成長に繋がる。


ねこねこ「問題は……あの三人のレベル上限解放が出来ても、ぼくが出来ないんだよねー……仮に蘇生魔法を習得しても、ぼく自身にはかけられないし……」


仲間とレベル差が開けば、共に冒険することができなくなる。


ねこねこ「ロイオは……たぶんぼくに合わせてくれる。でも……ロイオに迷惑かけたくない」


兄のように慕ってきた。そんな彼にどっちを選択しても迷惑をかけてしまう。


ねこねこ「……でも……そもそもぼくたち……死ぬかなぁ?」


調子に乗っているといえばそうだ。

事実『Noah』から来た四人は通常のステータスとは異なる成長をしている。

それを本人たちは知らないが、死ぬ予感、気がしないのはそのためだ。

それでも、死はある。彼らは気が付かない。気が付けない。

ねこねこも含め、すぐ近くまで忍び寄っていることに。


エノ「セアラ様‼ セアラ様はいらっしゃいますかっ‼」


モンスター襲撃からかなりの時間が経った。この報が届くころ、彼らの身体が血に染まる。

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