第58話ちからこそすべて!byのーきん

ゼウス「……ふん、最高級の腐敗肉――いや、骨付き肉が出てきたか。懐かしい」


 数多の不死者を素手で打ち砕き、その内一つの屍に座していたゼウスは倒したアンデットたちが一か所に集まるのを眺めていた。

 やがて誕生したモンスターから漂う腐敗臭は正しく死の臭い。杖にしている巨大な戦鎌からは負のエネルギーが満ちており、このモンスターの別格さを物語っていた。


「……カハァ……我が同胞を狩り尽くしたのがたった一人とは……」


 『不死王リッチ・スカルメイジロード』


 『Noah』において最終ボスに仕える二人の最高幹部の一対。レベル六〇超え、不死者種最上位種。賢者クラスの魔法を行使できる上に肉弾戦にも長ける。

 ゲーム時代は四人でフルボッコにしたことを思い出して緩む口元を引き締める。

 レベル差が大きくあり、遠距離も近距離も抜け目のない強敵の登場に心躍っているゼウスだった。


「……いや違うな……もう一つ生きた血の匂いがするぞォ! あそこかァ‼」


 黒い炎の鞭がゼウスを無視して背後の木ごと焼き切った。そこにいた少年カイであった黒く焦げた小さい物体が肉の焼ける臭いを放ちながら倒れる。


ゼウス「……」


「カハァ……ハハハァ! 脆い、脆いぞォ! 人間よ、弱者よ、我が前に平伏せェ! さすれば、我が下僕とすることも考えてやろう‼」


ゼウス「……くだらん」


「……ハァッ……なんだと?」


ゼウス「この世界も俺がいた世界も、力が全てだ。仮想であろうが現実であろうがそれは変わらん。俺はそう思っている」


「いきなり……なにを言っているゥ……?」


ゼウス「自論だ。俺たちは貴様ら雑魚モンスターを狩って快感を得ている。貴様らに殺される危険があって――死のふちにいてこそより強い快感が得られる。故に戦闘において死者が出ることをなんとも思わん。死者そいつが弱かっただけだ。が――」


 剣を抜いたと視認した刹那、スカルメイジロードとゼウスの距離は零。

 驚愕に体勢を崩した不死王は距離を取ろうとするが、それより速くゼウスの斬撃が薄皮のついた身体を両断した。


「ぬあァァァ⁉」


ゼウス「眼前の最強オレを無視して、先に弱者こどもを殺すなど……屈辱の極みだ」


「うあァ……ぬおォっ⁉」


 縦真っ二つになっても死することが無いのは不死の王という器が為せる技だ。それも絶対の強者、即ち最強の前ではウジ虫と同列に過ぎない。


ゼウス「……貴様は俺を怒らせた。ミンチでは済まさん。存在が無くなるまで殴り潰してやろう」


 抜刀した剣を鞘に納め、嗜虐心と怒りが入り混じったような笑みを浮かべ上がらせるゼウス。

 指をポキポキと鳴らしながら見下ろす今の彼は正しく、絶対的強者のそれだ。

 魔王にも似た雰囲気を放つ人間に不死王は恐れを抱き始める。

 これからわが身に起こるであろう悲劇に身を震わせ、不死王スカルメイジロードは転移の魔法を発動させるべく魔法陣を展開する。

 それを断じて許さないゼウスは魔法陣を展開した腕を踏み潰した後、狂戦士中級スキル『冷酷の鋭眼ハートレス・アイ』で魔法使用を制限する。


それから不死王がどうなったのか、語るまでもない。


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