第60話わずかなあせり

ロイオ「……確かこいつは神聖系が弱点だったか……」


 四人でゲームして団欒を囲んでいた時を懐かしみつつ、ロイオは敵の情報を思い返している。

 『Noah』時代、スカイファントムは物理攻撃無効と魔法攻撃激減という鉄壁の防御特性を有していた。生半可な魔法ではダメージすら与えられず、ロイオたちは初見で全滅寸前まで陥った。


「……」


 黒い球体を包んでいた黒い霧がじわじわと周囲に広がり始める。すると付近にあるモンスターの死骸がドロドロと溶けていく。

 ロイオは自らの危機察知能力に従って後方へ大きく飛び退く。


ロイオ「アシッドミストか……まあ、ウザい霧ごと吹っ飛ばしてやるよ。ホーリィフォース!」


 『アシッドミスト』――猛毒付与の範囲系攻撃。触れるだけで人体を溶解させる漆黒の霧がロイオに迫る。

 それに応じて、剣を握っていない片腕を前に突き出し神聖な光波をレーザーのごとく射出。

 オールフォースによる超強化後の神聖属性フォースはアシッドミストをかき消し漆黒の核に向かう。


「……」


 球体がぎらつき、そこから三又の黒い光弾が放たれた。

 闇の次弾とロイオの光波と激突し、大地に転がる白骨と死肉を飛ばして空気の衝撃が広がった。

 舞う砂塵を払い除け、視界を広げるロイオの眼前にはスカイファントム。


ロイオ「……今の攻撃は知らねーな」


 最大HP、最大MP、スキル、攻撃パターン等すべてを四人で攻略済みのモンスター。のはずだった。

 例外の攻撃、例外のスキル、例外の魔法。

 頭の中にある数多の情報を検索してもスカイファントムの使用する攻撃ではない。勿論、他のモンスターが使っていた覚えもない。

 僅かな焦燥感が一筋の汗を流す。

 まずい、と動揺がロイオの胸中を支配し始める。

 ロイオはアドリブが苦手なタイプの人種であったからだ。


「……」


 邪悪な気配を纏う球体は最強を自称する魔法剣士の動揺を見逃さない。

 自らの形を変化させ、刀剣と化す。加えて黒い瘴気が包み込みより天にも届く巨大な剣へと変貌。


ロイオ「これも……なんなんだよこれは!」


 横に大きく移動して振り下ろされる巨大剣を避けようとするが、背後には街がある。ロイオが避ければ、街はおろか国すらも両断しかねないそれは、ねこねこや山田やゼウスを襲うだろう。


ロイオ「くそが! ガイアフォースプラスアイスフォース!」


 それでも今の俺は最強だ、とロイオは自分を奮い立たせて巨剣を止めるべく大地を盛り上げて壁を作り、氷壁も交えて強度を上げる。

 しかし絶壁をもってしても漆黒の凶器は同等の巨大な盾を打ち壊していく。


ロイオ「っ!」


 街にその破滅の刃が及ぶ前に悔しがるロイオは迎撃すべく跳躍し、フォースによって神聖属性を付与した片手剣で切りつける。


ロイオ「やらせねぇ! やらせねぇぞぉおぉおおおおお‼」


 上がった怒号には怯える身を鼓舞する役目もあったが、もう一つの感情が乗っていた。


ロイオ「もう二度と――ねこねこまで死なせるわけにはいかねェんだよ!」


 過去での後悔――大切な存在を失う苦しみを分かち合った『弟』まで同じ目に遭わせない。

 そんな覚悟も込めた雄叫びは空に消える。


 巨剣と交差する片手剣は亀裂が走りだし、耐久値限界の訪れを告げる。

 銀の破片を散らばらせて神聖属性は霧散した。

 障壁を無くしたスカイファントムは勢いを取り戻す。ロイオは両手で白羽取りをするも圧倒的重みに敵うはずもなく、黒の剣と共に落下する。


ロイオ「おおぉおおおおお‼」


 無力を嘆く叫びが空虚に消えると共に街の門を始めとする一部が倒壊した。


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