第50話ふんさい、ぎょくさい、ぶっこわし
殺したはずの――いや元から死んでいるか――
ゼウス「ふっ!」
振り返りざまに裏拳で斧を払い、腕があらびき肉になるまで殴る。つもりだった。
ゼウス「っ⁉(斧が砕けただと……)」
振り下ろされた斧と裏拳が接触した瞬間、斧の方が粉々に砕け散った。
この現象に見覚えがあった俺は、取り敢えず当初の予定通り、腕をミンチにする。
ゼウス「他にムカデ擬きはないな……?」
周囲を警戒していたが、安全を確認したので警戒を解く。
さて、今の現象は……リオという格闘士と戦い終えた後に『ひのきのぼう』が壊れた時と似ていた。ここで俺は二つの可能性を思いつく。
ゼウス「『Noah』でアイテムブレイクは存在しない。が、ここは現実……考えられるのは、俺のSTRが武器を壊せるほど強い、もしくは一定数値に達したことで得た新たなスキル……他には、この世界でのアイテム耐久値が尽きたということだ」
可能性として有効なのは後者だろう。
前者は少々強引な推察だ。
この二つを確かめる手立てはないものか……(この時の俺はステフォンの機能を完全忘れていた)。
カイ「おにいちゃん、頭大丈夫?」
ゼウス「うっ……! こどもに心配されるとは……そうだ、カイ。さっきの棒を貸してくれないか?」
カイ「え、うん。いいよー! はい」
ゼウス「助かる……よし、装備出来る……次はカイ、この棒で俺を殴れ」
カイ「え! おにいちゃん、殴られるのが好きな人……?」
ゼウス「断じて違う! 一つ確認したいことが出来ただけだ。早くしろ」
この棒はさっきカイが見つけたものだ。アイテム耐久値は十分だろう。
棒を二、三度振っても壊れることはなかった。俺のSTRが強すぎることはない。
つまり――。
カイ「やぁ!」
カイの攻撃で俺がダメージを受けることはあり得ない。
が、これは実験だ。山田の時同様、俺はその棒切れを捕らえる。
カイ「あれ⁉」
俺が防御のため握ると、そのひのき棒なる武器は砕け散る。
ゼウス「……そうか……そういうことか……正体は掴めんがなんという便利なスキルだ」
さて、実験は終了だ。
ゼウス「カイ、行くぞ」
カイ「うん!」
お気に入りだったであろう武器を無くしてちょっと残念そうだったが、俺の言葉に元気な声を返してくれる。
お気に入りな武器より気に入られたようだな……俺は。
あいつらにこども好きとか弄られそうだ……。
ゼウス「……いや、やはり行くのはやめだ」
カイ「おにいちゃん?」
ゼウス「どうやら、まだまだ遊び足りない痛んだ肉塊共がいるようだ」
背後から大多数の気配を感じた。
まだ距離があるとはいえ、モンスターの大群を相手にこの新スキルを試すのも悪くない。
カイ「今度はぼく……どうすればいいの?」
ゼウス「ふん……決まっている。俺の傍から離れるな」
カイ「うん!」
ぱあっと明るい笑顔で俺の腰にしがみついてくる少年。
弟、もしくは息子がいたらこのような感情が湧くのだろうか……?
これが父性……というやつか?
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