第49話やさしくてつよいさいきょうさん
カイ「おにいちゃんみてみて! なんか武器っぽい棒!」
ゼウス「そうだな。俺も前までそれを使っていたぞ」
草原の一角、木陰でのんびりしている俺は、少年が拾ってきた棒を自慢げに振り回しいる様を眺めていた。
この少年、カイの母親を探してここまで付き添ってきたのだが……本人は見知った土地に来て安心したのか、さっきからずっとこの調子だ。
ゼウス「ん? ……視線……?」
少年を眺めている俺を眺めている輩の存在に勘づく。
カイ「おにいちゃん?」
ゼウス「そこか」
砂利を拾い、立ち上がって斜め後ろに投げる。
その距離は辛うじて俺を覗き見れるくらいの遠さだ。
もし、百人斬りを果たした俺に恨みを抱く人間なら百一枚目のボロ雑巾を作ろう。
それ以外なら――殴るだけだ。
カイ「石なんか投げてどうしたの……え、あれなに……モンスター?」
ゼウス「俺から離れろ。そうだな……この木陰にでも隠れていろ」
ロイオたちにでもくっついてきたか?
このアンデッドの群れは。
カイは怯えて木陰に身を隠すが、所詮は木。アンデッドが近づけば、即座に襲われる。
しかし、なぜ街の中でモンスターがポップする?
この世界も、安全地帯だったキャンプはなくなったのか? まあ必要ないが。
ゼウス「ふん……たかが十体で何をしに来た?」
悠々と歩いて近づいていく俺に対して、死体たちが駆けてくる。
カイ「おにいちゃん!」
ゼウス「心配するな――」
顔だけ出して俺に心配の声を浴びせる少年にそれだけ言う。
俺は襲い掛かってくる一体の
カイ「ええぇぇぇぇ!?」
腐敗臭とともに砕け散った死体Aを皮切りに、押し寄せてくる腐った肉塊たちを一撃で没させる。
死体B「クォ!」顔にゲンコツ、没。
死たいC「カァ!」わき腹に回し蹴り、ぼつ。
したいD「ギヤ!」顔面に膝蹴り、ぼt。
したE「gy―」股間蹴り上げ、ぼ。
しtF「g」なぐる。
にくG以下略。
・
・
・
次々とかかってくる汚物の臭いがする死体が俺のこぶし(足込み)で砕け散る様は幼子には刺激が強すぎたようだ。
絶叫と共に少年の目をくぎ付けにしてしまった。
ゼウス「安心しろミート共。お前達の
すべてを肉片に変え、コバエが寄ってくる頃には怯えていたはずのカイが嬉々として走ってきていた。
カイ「おにいちゃんスゴイカッコ良かった! 僕、モンスターを素手で倒す人、初めて見た! 剣を使わずにすごいよ! 一瞬だった!」
ゼウス「俺は強いからな。それはそうと、この辺りではモンスターが湧くのか?」
カイ「ううん……何回もここで遊んでるけど、初めてみた……」
また不安そうになる少年の頭に手を置いて撫でながら、俺は考えていた。
雑魚とはいえ、なぜモンスターが湧いた?
本来はあり得ない。だが、起こったのは事実だ。
ゼウス「カイ、俺は仲間にこのことを伝えに行く。ここでお別れだ」
スマホが無いことを恨む。このステフォンがラインできれば良かったんだがな。やはり、異世界はスマホと供に渡らなければな。
カイの頭を撫でるのを止めたが、小さな手に再び頭に置かれる。
カイ「おにいちゃん、ママを探してくれるって言った……まだママは」
ゼウス「う……うぅうう……ぬぅ……ハァ……わかった。一緒に来い。一人にさせるのも心配だからな……だが、俺の仲間は頭のおかしい奴らだ。毒されるなよ?」
カイ「うん! え、うん? うん!」
こどもは素直だ。
俺も散々悩んで顔色をかなり変えて連れていくことを選んだ。
このこどもも俺の言葉の意味をわからないまでも納得した。
この少年、ロイオに押し付けて置こう。ねこねこと山田には会話しないように言って置こう。
カイ「あ⁉ おにいちゃん後ろ‼」
突然顔色を変えたカイ。
こどものいたずらかもしれない、だがこの状況でそんなことをするバカなこどもではない。
即座に後ろを振り返ると、粉砕したはずの腐乱肉が宙に浮き、凶器足り得る斧を振り下ろしていた。
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