第51話バカとカレンなハナ

山田「ふ~ふ~ん、ふふ~ふ~ん」


 やっぱいいもん手に入れると気分がいいなぁ。

 街道を鼻歌混じりに歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


リオ「うぅーん! やっぱりここのチョコバナナクレープサイコー! ね、エリー!」


エリー「やれやれね……クエストから帰ると毎日ここにくるんだから」


 ゼウスの腕試しやってた格闘士のねえちゃんと耳がちょっと尖ってる淡い金髪のねえちゃんがベンチでクレープを頬張っていた。

 美少女二人のクレープ食べたニヤケ顔とか……ねこねこが見たらナンパしそうだな。


山田「おーす、昨日ぶりだなー格闘士のねえちゃん!」


リオ「えーと……ああ! ゼウスと一緒にいたおバカな方!」


山田「嫌な覚え方されてんな!」


 そんなに深い仲じゃない女の子にまでバカって覚え方されんのかよ……深い仲の女の子もいないけどさ……。


エリー「……」


山田「お? ねえちゃんとは初めましてだな。俺は山田、盗賊やってんだ」


エリー「……」


リオ「あー、エリーは人見知りなんだー。この子、エルフ族出身で魔導士だよ」


山田「え、エルフ⁉」


 驚いている俺のことなど意に介していないエルフ族のねえちゃんは、クレープを完食すると立ち上がって格闘士のねえちゃんにも立ち上がるよう促す。


エリー「リオ、行くわよ」


リオ「ちょっとちょっとエリー、ガン無視は流石にヒドイって!」


山田「別にいいぞ、馴れてるし。ただ、エルフのねえちゃん、一個だけお願いがある……」


エリー「……なんですか?」


 めっちゃ嫌そうな目してるー……。

 だが、ここでエルフ族にあったのも何かの縁だ!


山田「俺と握手してくれぇぇぇぇ‼」


リオ「……」

エリー「……」


 心の底から頭を下げて懇願する俺を変なやつを見る目と冷ややかな目でいる二人。

 女の子に男の……いや、俺のロマンはわからねぇ。


山田「頼む!」


エリー「……なんで、そんなに必死なの? 私たちエルフ族が傲慢で人間を見下している、と思っているから?」


山田「そんなこと思ってねぇし、聞いたこともねぇ!」


 まっすぐな目で苦々しい顔をしているエルフのねえちゃんを見つめる。


山田「俺はただ……俺たち仲間の夢、ロマンを果たしたいだけだ!」


 エルフ族はいわば、ファンタジーの象徴。

 同人とかエロゲーとかじゃ、色々とヤられてるエロの種族。

 だが、俺たち、いや俺は……エルフとはもっととうとく神聖なる存在だと思う。そんな奴にとって、今この瞬間は至高の時だ。それを証明できることがしたい。でも、エルフを汚したくない。俺の中で許せて、且つ実行できること、それが握手だ。


山田「笑いたけりゃ笑え! だが、何があっても俺はこの出した手は引っ込めねぇぞ!」


リオ「……こ、こんな情熱的で必死に握手したがる人、初めて見た……」


エリー「……」


 若干ひいてるオレンジねえちゃん。

 俺の出してる手をじっと見てるエルフねえちゃん。


山田「……っ」


 俺の手が少し冷たくて、柔らかくて華奢な感触に包まれて、顔を上げてみるとエルフねえちゃんがその蒼いキレイな眼で俺を見下ろしていた。


エリー「改めて、私はエリー。レベル二五の魔導士。エルフ族よ」


リオ「あ、あの人見知りなエリーが……」


エリー「リオ黙って。それで……えっと、山田くんはこれで満足かしら?」


山田「あ⁉ え、えっと、そ、そうですね! どうもありがとうございます!」


エリー「そう……私たちはもう行くわ。仲間が待ってるの」


 俺の至福の時間は終わり、手が離れると彼女はそのまま顔の近くまで腕を上げる。


エリー「またね、山田くん」


 やっべぇ……俺、二十歳にしてまじな初恋しちまったかもしんねぇ……。

 微笑で手を振って人並みに消えていくエルフ……エリーちゃん。

 それを追って駆けだす子が俺に向き直ってこう呟いて行った。


リオ「エリーは競争率高いよー……がんばってね!」


 一人取り残された俺は、彼女たちが座っていたベンチに腰掛ける。


山田「エルフ族の男って……イケメンばっかだよなぁ……はあ。ま、実力なら断然俺の方が上だけどな」


 なんかゼウスみたいになっちまったけど、事実、エルフだからといって負けるなんて思わねぇ。

 惚れた女メインヒロインの前じゃ、ヒーローは最強よりつえぇんだからな。


「きゃあぁぁ!」


 おっと、さっそくヒーローの出番のようだ。

 街中から聞こえた悲鳴の元へ俺は颯爽と走り出した。

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