第46話プリンセスのごしゅみww
図書館に向かった二人を見送って、再び庭で書類整理を始める私。
セアラの淹れてくれた紅茶で気分を切り替えるがやはり、一人は寂しい。
でも、一つの良いことが頭に浮かんで人知れず笑みが浮かんでくる。
オブ「ふふっ……セアラにいいお相手が出来て良かった」
ロイオ「ねこねこのことか?」
先程の彼と同様にひょっこりと背後に立っている恩人に私は驚きのあまり席を立つ。
オブ「わぁっ!? ろ、ロイオさん?」
ロイオ「今、正にそのお相手を探してるんだが……入れ違いになったか」
オブ「あ、はい。ついさっき図書館に」
ロイオ「そうか……あ、そこ誤字があるぞ。わざわざ日本語で書類書く必要あんのか?」
オブ「これは……」
言いにくい様子を看破され、書いていた紙を抜き取られる。
オブ「あ」
ロイオ「えーと……『木がらしの上で、彼は、私を、どうようの森に迷わせ』」
オブ「だ、ダメですっ‼ 返してください!」
手を目一杯使って、彼から紙を奪う。
ロイオさんは、にやーっといじらしい笑みを浮かべている。
ロイオ「まさか、お姫様にこのようなご趣味があられるとはねー。自作小説? それともポエム?」
オブ「……う~……セアラでもわからないように日本語で書いてたのに……」
紅潮する頬を紙で隠しながら見られたことを悔しがる私にロイオさんは笑って厳しい言葉をかけた。
ロイオ「なるほど、だからか。でも色々読みづらいなこれ。ひらがなが多いのはしょうがないとしても、句読点多いし、比喩も変だし」
オブ「うっ……それは……まだ勉強中なんです!」
ロイオ「こっちの世界に日本語の文献なんてあんのか?」
オブ「ごく少数ですが、書き残されています。探すのに苦労しましたよ」
えっへんと胸を張って、いばる私にロイオさんは少し意外そうにする。
ロイオ「自分で探したのか?」
オブ「ええ。図書館から個人経営の書店まで、この国のありとあらゆる書物を漁りました!」
ロイオ「領主がすることじゃねぇな」
オブ「はうっ……⁉」
手痛いところを突かれて張っていた身体を縮こまらせる。
そんな私にロイオさんは気を遣ったようで、「あー」と一拍間をおいて切り出す。
ロイオ「言語、教えてやろうか?」
オブ「え……いいんですか?」
ロイオ「……まあ、なんだ。お前とはこれからいい関係を築いていきたいからな」
この人の心意を読めず、少し目を細めて問う。
オブ「……権力目当てですか?」
ロイオ「お前、俺を下衆だと思ってんのか……ちょっとショックだぞ」
オブ「ふふっ……冗談です」
ロイオ「ガチな目と声色だったんだが?」
オブ「うふふ……。でも、本当にどうしてですか?」
ロイオ「……この文字と分量見れば、お前がどれだけ頑張ったのか分かる。それに一生懸命なやつにはお節介焼きたくなるんだよ……俺は」
空を見上げて言う彼は、まるで親しい誰かを想起しているように見えた。
恐らく、元の世界の友人か誰かだろうと私は思う。
でも、それにしては彼の表情があまりに優しげで、僅かに哀しげに映る。
オブ「それはロイオさんが優しくて良い人ということです」
だから彼はこうなんだと思う。
遠く離れてしまった誰かを思い出して、それが顔色に出る人。
自分と重ねつつも、やはり私とは違うと認識する。
私は父や母にそんなこと出来ていないから。
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