第45話おひとよしなさいきょうさん

ゼウス「……どうしたものか……」


山田を探すべくギルドを出て、しばらく歩いた後のことだ。

俺は、悩んでいた。


「うぁぁぁあああん!」


ゼウス「……」


五歳くらいの少年が、大泣きしている。

俺が泣かせたわけじゃない。俺が通りかかったときには泣いていた。

だが、問題は……この少年がすれ違った俺のズボンを掴んで放してくれんことだ。

何もしてない、何も悪くない、なのに、罪悪感が湧いてくる……。


ゼウス「少年」


しゃがんで、この少年と目の高さを合わせる。


「うう……ぐすん……ズズっ……?」


ゼウス「名を何という?」


「……カイ……」


ゼウス「カイか。良い名だ。では、カイ……男が人前で泣くものではない」


カイ「……ズズっ……でも、ママが……」


ゼウス「安心しろ、この俺が一緒に探してやる。だから泣くのは止めろ」


カイ「……おにいちゃん、いいの?」


ゼウス「構わん」


この迷子の少年が手を放してくれるならお安い御用だ。

さて、袖で涙を拭いたな。


ゼウス「母親とはどこで離れたのだ?」


カイ「わかんない……気がついたら、ママが迷子になってて……」


迷子はお前だ。

だか、早速、参ったな。

おおよその見当をつけたかったのだが……。


ゼウス「そうか……では、この辺りに見覚えのあるものはないか?」


カイ「……えっと……わかんない」


ゼウス「……なら、少し歩こう。分かるところになったら言ってくれ」


カイ「うん……」


俺が歩き出すと少年は小さな手で俺の手を捕まえる。

放してくれそうにないと判断した俺は仕方なく、そのままにした。



少し歩いて、人通りが少ない草原のような場所に出る。

周囲を見渡しても人影らしいものはなく、清清しいくらいの緑が広がっていた。


カイ「……ぼく、ここ知ってる……」


今まで不安げだった少年の顔色が明るくなり、俺の手を放し、ぐるぐると体ごと回して周りの風景を見ている。


カイ「マヤちゃんと一緒に遊んだとこだ!」


このガキその年で仲のいい女がいるのか。

いずれ、幼馴染みとして恋愛に発展するような展開がこのガキには待っているのだろう。

実に遺憾だ……。


ゼウス「この辺りまで来れば、後は大丈夫なのだな? ではな」


カイ「あっ……」


踵を返し、来た道を戻ろうとする俺の手をまた捕まえる少年。


ゼウス「なんだ、もうここからは平気だろう? その手を放せ」


カイ「やだ。まだ、ママが……」


ゼウス「……はぁ……暗い顔は止めてくれ。こっちの気分まで暗くなる」


カイ「……」


ゼウス「もう少しだけだぞ」


カイ「うん!」

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