第8話ひのきのぼう
天から灼熱の太陽、地から乾燥した砂。行けども行けども変わらない砂地の光景。
早くも俺たちニートのパーティ、別名ニーティは砂漠の暑さと代り映えしない景色、そして宿敵・日光に苦しめられていた。
ねこねこ「……あついよ~」
ゼウス「……ぬぅ……クーラードリンクを忘れたか」
ロイオ「ゲーム違うって……」
山田「お前ら、だらしねぇーなー。もっとシャンとしろ! 雑魚モンスター狩らねぇと、ただでさえレベル低いんだからな」
山田一人を除いて。
最初こそ街を出て、実際のモンスターと対面した時の感動はあったが、そんなものはもうない。
ウサギ型、イノシシ型にスライム種等々……小型モンスターたちの攻撃パターンや行動順は暗記してるし、苦戦はしない。隙を見つけては、撫でたり
だがしかし、所詮ひのきのぼうで殴ってれば勝てる。リンチだ。
まあ、あのモンスターたちのおかげで全員のレベルは五に達することができた。
レベル五になりさえすれば、全員が初級魔法かスキルを撃てるから砂漠地帯のモンスターも敵ではない。
たとえキメラの推奨レベルが高かろうとなんとかなる。数の有利は偉大なのだ。物量作戦イエーイ。
つまり俺たちを今苦しめているのは砂漠地帯のモンスターではなく、環境だけ。
だからこうして砂地に座り込んでだらけている。元の世界と同じように。悪劣な環境ということを除けば、最高の日常お帰りなさい状態だった。
悪劣な環境……そう、ひきこもりには直射日光が弱点だと相場が決まっているのだ。憎き太陽、許すまじ。
さてさて……万人が既知のひきこもりの弱点なんかより、さっきから誰も言わないことがある。
触れないでおきたいところではあるんだ……しかし、触れないと一層気持ち悪いことなんだ……。だから言わせてもらう。
山田「まったく、だから初期装備なんて暑いだけだっていったろ?」
コノ男、今、全裸ダ。
ねこねこ「そんな変態になるくらいなら、暑いのガマンする……」
ロイオ「なんで直射日光平気なんだよ……」
ゼウス「棒切れすら捨てるか……貴様……」
クエストを受注して、おねえさんからひのきのぼうと旅人の服なる防具を貰った。この服にフードが付いていなければ、とっくに全滅していた。
だが、この変態は街を出るなり、それらをすべて脱ぎ捨てたのだ。
山田「俺はドロップ品しか装備しない縛りプレイしてんの」
それは、以前からゲーム上では目にしてる。お前の息子とは初対面だがなおえぇ。
でも、まさか、異世界に来てまでやることはないだろうに。バカが。
軽蔑の目を受けてもケラっとしている山田は、モンスターからドロップしたアイテムを確認しだす。
山田「うーん……やっぱ雑魚モンスターだし、ロクなもん落ちねぇか……お、これなんかは使えそうだな」
そういって、砂漠の獣人型モンスターからドロップしたものを装備する。
山田「ビーストマンからドロップした『ボクサーパンツ』。守備力と暑さ耐性が上がったな!」
突如、空気が凍った。
ねこねこ「うわ……」
ドン引きしたねこねこが、俺の後ろに回り込んでくる。
気持ちはわかる。激しく同感。俺も仲間じゃなかったら、ひのきのぼうでボコボコにしてる。
ゼウス「……」
ゼウスさんに至ってはひのきのぼうをへし折る寸前。殴りたいけど、一応不覚にも関係性的に残念ながら仲間だから我慢してるって感じ。
一方、全裸の変態から、もっこりパンツの変態に進化したその顔は、なんとも残念なことに生き生きしていた。なんだろう……キモい奴が進化してイケメンになると思ってたら、予想を斜め下に裏切ったこの残念な気持ち。
うん、分かりにくくてごめんなさい。
山田「お前らもいるか? 結構暑いのマシだぜ?」
ねこねこ「山田わかってる? ビーストマンだよ? マンが履いてたパンツだよ? ウーマンでもマ〇コでもないんだよ?」
ロイオ「気持ちだけもらっとく……あと、ストレート過ぎる下ネタやめろ」
ゼウス「バカバカしい」
そういって、ひのきのぼうを杖代わりに立ち上がったゼウスさんはしっかりとした足取りで歩き出した。
すると――
「グッギャオォォォォ!!」
凄まじい咆哮が地中から俺たちのいる砂地に響く。砂が震え咆哮の元から波紋が伝わってくる。
身の危険を感じたゼウスさんは大きく跳んで俺たちのとこまで後退。ゼウスさんが跳ぶとその足元から鋭利で巨大な牙が砂を食らって現れた。間一髪、と言うところだった。
ロイオ「ハァ……どうやら、ここでボス戦の流れか。BGMでも流れ始めそうな演出だ」
俺はズボンについた砂をはたきおとしながら、ねこねこの手を取って立たせる。
ねこねこ「えぇ、暑いのにー……ちゃっちゃと終わらせようよー」
山田「ちゃっちゃ……おもちゃのチャチャチャってな! 遊んでやろうぜ、このAIB⚪と!」
? どういう意味のボケでしょうか? これは後でみっちりねっとり問いただすとしようか。ボケを説明させられる苦しさはかなりのモンだと聞く。
ゼウス「ふんッ俺に不意打ちは効かん。身をもって格の違いを教えてやる。犬っころ!」
山田「あれ? ゼウス、ロイオ、ツッコミは?」
ロイオ「今そういう雰囲気じゃねぇから、後でな」
砂の中から鱗のついた両翼とサメの背びれ、犬の顔と尻尾をもった龍の風貌を残すモンスターがその巨躯を羽ばたかせ、地上に足をつけた。
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