第7話コンバート!

 結局、俺たちが『Noah』から来たというだけで受付のおねえさんが必要な手続きを全部済ませてくれた。

 晴れて冒険者デビューを果たした四人。冒険者証明物として、支給されたスマートフォンのような物……うん、まんまスマホだ。各々がそのスマホに表示されている自分のパラメーターとにらめっこ状態。


ねこねこ「レベルはリセットかぁ……魔法とスキルと職業がそのままになってるのはなんかのバグかな……ま、いっか。ハーレム作るには能力充分だし!」


 欲に塗れた小さな性獣は、チラッと横目でおねえさんを盗み見てニヤッとした。


山田「装備品や他のアイテム……アレも全滅か……今までの苦労が……ハァ」


 画面をスクロールしていくに連れて、テンションが沈んでいく山田に同情した俺はその下がった肩に片手を置く。


ロイオ「……この世界で新しい薄い本ワンピースを見つけるぞ」


 小さい声で囁くと、いい笑顔で親指を立てる山田に同じく親指を立てて返す。一つなぎの大秘宝は、この世界のどこかにあるはずだからな。意地でも見つけてやる。

 童貞同盟をガンスルーして、同盟会長は一人歓心していた。


ゼウス「職業補正がかかるのは変わらずだな。安心したぞ、レベル一でこの攻撃力なら不満はない」


 三人の満足気な様子を確認し終えると、俺はここで疑問点を唱える。


ロイオ「ところでよ、このスマホ――魔道具ってやつか?」


山田「みたいだな。冒険者に渡される支給品ってとこか。見た目はまんまスマホだけど、電気じゃなくて魔力がバッテリーになってるな、こりゃ。通話、カメラ、電卓、辞書とかの便利機能は無し。やれることはクエストの受注確認とステータス表示……他にはっと……特にねぇな!」


 スマホの裏を指でコンコンとノックして音を確かめながら、電子工学系男子はスマイルを向けてくる。

 何らかの発見を誤魔化した顔の変化スマイルに、ここで触れることはしない。

 山田が時々、秘密主義の一面を覗かせることはある。そこに付け込もうとしても、気が付けば話が流される。俺たちの中で、軍抜いて会話回しが巧いコイツには好きにさせておけばいい。結果として、全員の利益になったことしかないからな。

 ゼウスさんとねこねこも見逃したようだ。なら、不自然にならない程度に話題を出そう。


ロイオ「おねえさん、魔法とかはどうやって使うんですか?」


 俺たちの新鮮な様子を楽しんでいるのか、ニコニコしている美人さんに質問した。すると、おねえさん(美人)は顎に手を添えて思い出すように言葉を繋げた。

 美人を連呼するのは大事なとこだからです。ココ重要。期末テストに出るよ。


ギルドのおねえさん「頭の中で念じるとか声に出すとか……詠唱も加えると威力が上がるらしいです」


 ちょっとした豆知識まで提供してくれるなんて……ガイドかよ。あ、ガイドか。

 というか、この世界、中二病に優しい。詠唱が許されるなんて……神か!


ゼウス「クエストはどうすれば受注できる?」


ギルドのおねえさん「受付に依頼書を持ってきて頂ければできます。その際にそれぞれのマフォンに受注登録しますので必ずお持ちください。それと念押しですが、マフォンは身分証明にもなりますので、常に携帯されることを推奨しています」


ロイオ「マフォン……?」


山田「俺たちの他に、『Noah』から来たやつとかいんの?」


ギルドのおねえさん「あなた達だけですね」


ねこねこ「おねえさん、彼氏はー?」


ギルドのおねえさん「知らん」


 ねこねこだけ相手にされてない……。口調も若干違うぞ。どんだけ嫌がられてんだよ……。


ゼウス「では、早速このクエストを受けよう」


山田「おおー! さっきのキメラ討伐か!」


 ゼウスさんが掲示板から取ってきた依頼書を見た受付嬢はちょっと困った風だ。


ギルドのおねえさん「あの……大変申し上げにくいのですが、レベル1でキメラは……」


ねこねこ「え、キメラってあの小鳥モドキでしょ? 楽勝だよ」


 楽観的なねこねこが口を開くと、おねえさんは俺たちに図鑑のようなものを見せる。そこには随分と凶暴そうな中型モンスターが描かれていた。


ギルドのおねえさん「この世界のキメラは犬とドラゴンとサメの合成獣で、推奨レベルは10以上です」


ねこねこ「見るからにやばそうな感じだねー」


山田「こいつ、『Noah』の序盤のボスに似てるな」


ロイオ「確か、そのボスの特徴は……ブレスによる麻痺と威力の高い単発攻撃だったっけ? ……冷静に考えれば、今のレベルじゃ太刀打ちできないな」


 口々に図鑑をみた感想を言うが、その声にゼウスは嘲笑。


ゼウス「なんだ? お前達、怖いのか?」


「「「いや、全然」」」


 ハモってゼウスを見返すと手に持った紙をおねえさんに手渡していた。


ゼウス「というわけだ。このクエスト、受けるぞ」


ギルドのおねえさん「ハァ……分かりました。念の為に言っておきますが、死んでも私は責任取りませんよ?」


 ため息交じりなジト目に見送られる。だが、気にしない。美人のため息はそれだけで男心をくすぐるのだ。だが、気にしない。ええ、気にしてないとも。

 何はともあれ、これで名実ともに異世界、兼冒険者デビューだ。

 いざ、砂漠のキメラ討伐へ。

 

 ゼウス「初陣だァァ‼」

 山田「テンションたっけぇなおい‼」


 お前もな。


 ねこねこ「おねーさん! お出迎えよろしくねー!」


 ……こいつには何を言ってやればいいんだろう……。もう諦めようかな。


 ロイオ「ハァ……」


 ねこねこ・山田・ゼウス「LUKが下がるから離れて歩けよ?」


 ロイオ「宝くじ前のギャンブラーかよ」


 ねこねこ「? ねぇどういう意味?」

 山田「ツッコミがなってないなー」

 ゼウス「ツッコミキャラ失格だぞ?」


 ロイオ「うるぅぅセぇいナぁあ!!」


 今ここでコイツら殺して、俺も死にたいッ……!


 ちくしょう!

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