005




HONG KONG SIDE





「猪野郎だぁ…?」


街の騒音が激しく、人混みでどこもごった返しているこの場所は、”鴨居 荵”のいる香港。

日本の都会とは比べ物にならない程の栄具合で、人の波にのまれて酔ってしまいそうだ。


鴨居は、通行の邪魔にならぬよう、建物間で電話をしていた。


「その声…お前”草間”だろ!何でお前が出てくんだよ俺は猪じゃねぇ!」

《馬鹿みたいに無闇に突っ込んで行ってるとことかまんまだろ。》

「無闇に突っ込んでねぇよ踏み込んですらねぇよ!」

《香港に入国した時点でお前は馬鹿やってんだよ!せめてあの人が日本にいる時に行けよ。》

「こっちは橋本組の情報集めなきゃなんねぇんだよ!人の仕事だろ口出しすんなハゲ!」


そう怒鳴りつけると、鴨居はそのまま電話を切った。












「…切りやがった。」


鴨居に切られ、スマートフォンの画面を見つめながら”草間 健吾”は何とも不服そうな顔をした。


「…あー…取り敢えず、お帰り…けんちゃん。」


今里は満面の苦笑いを浮かべて口を開いた。


「…鴨居君、なんだって?」

「……ハゲだとよ。」

「え…あ、ちょ、どこいくの!?」


取り上げたスマートフォンを今里に返すと、草間はそのまま扉の方に踵を返した。


「…あいつ、ああ見えて馬鹿なのあんたも知ってるでしょ。下手したら死にますよ、まじで。」

「えっ、まさかお前、香港行く気か?今から?」


暫く遠くから様子を見つめていた小野崎が、思わずぎょっとした。


「…。」


苛立ち半分、もどかしさ半分…と言ったような草間の表情を見て、今里は少し微笑した。


「…じっと出来ないのもわかるけどさ、まぁ…何とかなるよ。」

「はぁ!?何言ってんだよ副社長!あんたもさっきまであの馬鹿止めようとしてたろ!無責任にもほどが…。」


思わぬ今里の言葉に、草間は激怒した。

だが、先ほどまでの慌てっぷりはどこへやら、今里は異様に落ち着いた表情でいた。


「平気だよ。」

「だから何で!」

「…さっきまではほんと、テンパってて忘れてたんだけどさ…よく考えたらほら、ちょうど香港には”彼”がいるし。」

「彼…?」


そう言って草間は眉を顰める。

対する小野崎は珈琲の入ったマグカップを口につけ、あっと何かを思い出したかのような顔をした。






「大丈夫。うちには…出来のいい社員しかいないからさ。」





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