003
「て言うか副社長…暇だからって急にそんな ”探偵みたいな”話題ふっかけるのやめてくれません?本業全く関係ないじゃないすか。」
「えぇー!だって暇なんだもん。」
小野崎の言葉に、気の抜けた若き副社長は一気に子供らしい口調になった。
頭の後ろで手を組み、小学生のように社長椅子をぐるぐると回転させる。
「暇じゃないんすよ。こんな寂れた事務所でも一応仕事が来るんすから…つかまじで今までの話なんだったんだよ。これだから厨二病が抜けない童顔は…「おいおい聞こえてんだけどー!?」
◎
紹介が遅くなかったが、ここは”情報屋”の事務所。
つまりは若い男は情報屋の副社長に当たる人物だ。
名前は…
「”今里 紺”であーる。」
「………なんすか突然。」
「…や、名乗った方がいいと思って。」
「…誰にだよ。」
ちなみにこの情報屋は、計6人の従業員で成り立っている。
社長はほぼ無断欠勤。
副社長は厨二病混じりの童顔男。
壊滅状態も甚だしい、まさに寂れた情報屋だ。
「あーー暇だ!日々に潤いがない!日常くそ喰らえ!今からでもいい!名探偵という名の神職業に転職したい!」
「じゃあさっきの妊婦切り裂き事件の真犯人について永遠と試行錯誤してればいいじゃないすか。その方が世の為人の為に役立てますよ副社長。」
「いや待てよ…今名探偵なんかになったら、一生社長の座を狙えなくなるんじゃないか…?」
「あぁ解りました。副社長、あんた名探偵向いてないんで現実に戻ってきて下さい。」
◎
PM13:23
「そう言えば…”鴨居君”は今どこで何をしてるんだ?」
ペン回しに夢中になっていた今里は、ふと思い出したかのように口を開いた。
対する小野崎は、何やらパソコンの画面とにらめっこをしながらコンビニで買った菓子パンをもそもそと食していた。
「…暇だし、電話でもしてみるか。サボってたらアイツのデスクぐちゃぐちゃにしてやろう。」
「あんた少しは副社長らしくしろよ。」
冷静な小野崎のツッコミは無視し、今里は上着のポケットからスマートフォンを取り出した。
LINEを開き、”鴨居”と表示されているアイコンをタップする。
そのままスマートフォンを耳に当て、相手が電話に出るのを待った。
…
…
…
…
…
…
《もしもし何か用?》
しばらくすると、聞き慣れた無愛想な声が聞こえてきた。
「おー鴨居君。君今どこで何してんの?場合によっちゃあ君の給料半減しちゃうけどよろし?」
「…鬼かよ。」
小野崎はそう言って苦い顔をした。
《あ?何だてめぇふざけんなよ!俺が何したっつーんだよハゲ!》
「ハゲ!?今ハゲっつった!?どの辺!?どの辺がハゲてんの!?」
《めんどくせぇなただの悪口だバァーカ!》
「口悪っ!あんま調子乗ってるとほんとに給料半……ん?」
無駄な事を言い争っていたが、途中で今里は何かに気が付き、勢いを止めた。
「…鴨居君、ほんと今何処にいるの?なんかバックがやたらと騒がしいというか…。」
《あ?何処って……
香港だよ。》
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