09 私はもう孤独じゃない





 どうやら気を失っていたみたいだ。


 ここのところ、ずっと気持ちが重たかったから、それで知らず知らずの間に体調を崩してしまったのかも。


 気が付いたら美術館の中にあるスタッフルームのベッドで寝かされていた。


 今までずっと、順平君が付き添ってくれていたみたい。


 なんだか悲しい夢をみたような気がするけど。それだけじゃなかったような気もする。


 だって、この胸の中は今、ちょっとだけ暖かいから。


 目を覚ましたら、私の手を握ってくれているあの子が視界に入った。


 あの子の顔をみたら、なんだか今まであった胸のつかえが、少しとれたような気持ちになる。


 全部じゃなくて、ほんの少しだけど。


「ありがとう順平君」


 きっと夢だ。


 夢で順平君に会った気がする。

 

 そしてたぶん、あの子が助けてくれたんだ。


 私の持っている記憶はあいまいだから。


 断言はできないけど。


 でも、どうしてだか、そう的外れなことではないように感じてしまう。


 これは束の間の夢で、ただの気のせいかもしれないけれど。


 私は順平君に感謝した。







 近藤順平からメールがきた。

 

 時都琥珀は目が覚めたらしい。


 クラスメイトである水城はほっと息を吐く。


「良かったね」

「水城がね」

「もう、すぐそういう事言う」


 ふくれ面の彼女がどんな言葉を期待していたかは知らないけれど、そんなに怒ってなさそうなので、今の言葉以外を探す気にはなれなかった。


 時都琥珀が消えた後、高坂先輩を読んで時空の渦を見つけてもらった。


 時間を巻き戻して解決しようと思ったのに、まさか、絵の中の世界をこじ開けることにはなると思わなかった。


 どうしてそんな事が分かったのか、詳しい事は理解できていないが。


 高坂先輩は分かっているらしい。


「あの力は君の心の複雑怪奇な領域が現実を書き換えるために、姿をとったものだ。だから、過去と今の君の心の状態が異なれば、おのずと力のも変わってくる」


 とのことだ。


 正直さっぱりだが、深く追求すると普通の人間の未知を踏み外してしまいそうなので、それ以上は何も聞かないことにした。


「嬉しいな」

「何が」

「月城君が、時都さんを助けてくれたこと」

「君の友達だしね」


 水城は何がおかしいのか、「ふふ」と楽しげに笑う。


 その理由は分からない。


 だって、僕たちはお互い別々の人間なのだから。


 でも、分からなくても別に良いような気がした。


 だって、違う事を考えていても、不快な気持ちにはならないし。


 それにそんな時間が案外悪くないように思えるからだ。


「また、デートしよう。時都さんには悪いけど、ちょっと大変だったでしょ?」

「それは確かに」

「じゃあ、次は遊園地だね」


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