03 学校でのひととき



 私は寝起きが良くない。


 頭がぼうっとしてしまうから。


 だから朝の授業はかなり、成績が悪かった。


 それでも、私は真面目に席に座って、先生の話に耳を傾け続ける。


 すでに迷惑をかけているけれど、でも、これ以上できるだけ誰の迷惑にもなりたくなかったから。


 そうして頑張って授業を受けていると、お昼ごろにようやく頭がまわりはじめる。


 けれどそうしたらお昼ご飯の時間。


 いつも自分で作ってきている弁当を食べると、また眠くなってしまうという悪循環だ。


 本当は、皆に合わせない方が良い。


 ご飯は食べない方がいいし、お昼までぐっすり眠っていた方が集中できるけれど、私はあえて今の生活を行っている。


 だって、皆に合わせない私でいたところで、誰かの役に立てるとは思えなかったから。


 そうして、皆の後ろに続くように、這いつくばるように、食らいつくように授業を受け続けると、ようやく6時間分の予定が消化される。


 最後の授業が終わるチャイムが鳴ると、いつも肩の力が抜けてしまうのだった。


 数学の先生が教室を出ていったのを見てから、教科書やノートをしまう。


 すると同じクラスの女性が声をかけてきた。


「ごめん。ちょっと良いかな」


 困ったような表情で話しかけてくるその人の名前は水城友理奈。


 少し前までは何があったのか、ちょっと大人しかったのに、今は明るい顔をしている。


 詳しい事は分からないけれど、彼女がこうして私に声を掛けることは珍しくはなかった。


 なぜなら彼女は、同じ部活に所属する間柄で、隣の席に座る者人だったから。


「えっと、さっき最後の方、ノート書き写すのが間に合わなくて。見せてもらえるかな」

「良いですよ」


 私は彼女にしまったばかりのノートを見せる。

 すると、彼女はありがとうと、柔らかい笑みを返してくれた。


 それだけで私は、彼女を良い人だと思う。

 こんな私に、笑いかけるだけの価値なんてないのだから。


 彼女がノートを写し終わるまでの間、暇な時間をぼうっと過ごす。


 人の声、人の気配。


 様々なものがまざったその空間は、なんだかノイズだらけのテレビ画面を思い起こさせる。


 はっきりと映像が映った方がきっと良いはずなのに、私はなぜかそれに居心地の良さを感じていた。


「時戸さん、ありがとう。すごく助かっちゃった」


 ぼんやりしていると、水城さんがノートを返してくれた。


 私は「いえ…、大したことじゃありませんから」と言って、そのノートを受け取る。


 要件はこれで済んだはずなのに、水城さんはなおも私の目の前に留まり続けている。


「あの…」


 戸惑いながら声を発すると、彼女は「ああ、ごめんね」と苦笑しながら、二枚の紙きれを私に差し出した。


「これ、いるかな。近所の福引で四枚当てたんだけど、二枚しか使わないから、余っちゃって」


 目の前にあるそれは美術館のチケットだった。


 私は普段、こういったものを人から受け取らないので、遠慮しようかと思った。


 しかし、知り合いの顔が思い浮かんだので、「良いんですか?」と尋ねてしまった。


「いいのいいの。もったいないし。もらってもらって」


 屈託のない笑顔で渡されたチケットを私は見つめる。


 親戚の少年であるあの子は、喜んでくれるだろうか。


 

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