02 時都琥珀の人生



 時都琥珀。


 それが私の名前だ。


 そこそこ名前のある家の、一人娘として生まれた。


 私が生まれたときは、大勢の親戚が集まって祝ってくれたらしい。


 時都家は、代々優秀な人間を世の中に送り出してきた。

 だから秀才ばかりの家系に、また新しい歴史が紡がれると期待したのだろう。


 しかし、私は彼らの期待に応えられなかった。


 名家の力を使って様々な教育を施されたけれど、何一つ結果は実らない。


 最初は力強く励ましてくれた親戚たちは、やがてため息を吐くようになり、落胆の表情を浮かべるようになった。


 周囲から離れていった彼らは、次第に会話の中で私の名前を出さなくなった。


 それでも、父と母は私の味方であり続けた。


「琥珀は琥珀らしく、のびのびと過ごしていけば良いのよ。他の人の目なんて気にしなくてもいいの」

「そうだ。琥珀が生きているだけで私たちは幸せなんだから」


 彼らは、良い両親だったと思う。


 人の役に立たない、ちり芥の様な存在にも微笑みかけて、人間扱いしてくれる。


 そんな、慈愛に満ちた人たちだった。


 しかし、良い人は長生きできないものだと決まっている。


 創作でも、現実でも。


 両親は事故で命を失ってしまった。


 交通事故で彼らが死んだあと、私を見る親戚たちの目は冷たくなるばかりだった。


 両親の代わりに私が死ねば良かったと思っているのだろう。


 心の中に秘めていてくれる人は、まだ良い人だ。


 中には口に出して私に伝えてくる者もいた。


 私はその言葉に反論できない。


 その通りだと思っているから。


 私は。


 私は、魔女になりたい。


 そして、魔法を使いたい。


 世界から消えて、私が生きてきた全ての痕跡も一つ残らず消し去るのだ。


 そうすればきっと。


 私も救われるし、皆も救われるはずだから。


 けれど、そんなことを考えていたある日、学校で有名な先輩が私に声をかけてきたのだ。


 不思議な雰囲気を持つその先輩の名前は、高坂凛子。


 私はいつも、彼女を見るとこの世の人ではないように思ってしまう。


「魔女なんて、そんなに良いものでもないよ」


 彼女は一部では次元の魔女と呼ばれているらしい。


 そう呼ばれるようになった経緯は分からないけれど、高坂先輩は自分の立場を良く思っていないように見えた。


 けれど、私は魔女になりたい。


 だって、人間でいても、誰に役にも立てないのだから。


 それに、魔女になれば月にだって行けるかもしれない。


 もしかしたら、そこには両親いるかもしれないから。


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