時都琥珀の物語

01 絵本の魔女




 月の光が降る夜に。


 魔女は月に旅立ちました。


 たくさんの友達がいる地上にさよならをして、箒で空に舞い上がります。


 本当は皆と一緒にいたかったけれど、そうすると皆が困ってしまうので、仕方がありません。


 魔女はさよならの言葉を告げて、月へのぼっていきます。


 もう二度と、地上の光景を目にすることはできなくなるでしょう。


 けれど、それでもかまわないのです。


 きっと心の中に皆の姿はあるでしょうから。


 だから魔女は、ちっとも寂しくはありませんでした。






 絵本を読んだ私は、ベッドの上に横たわる。


 子供の頃からずっと持っている、大事な絵本を抱えながら。


 これは両親にもらったもので、大切な思いが込められた品物だ。


 でも、その贈り主はもうこの世にはいない。


 この絵本の魔女のように、月にいったら会えるだろうか。


 よく亡くなった人は空で見守っているというけれど、本当なのだろうか。


 天井を見上げていた私は、視線をずらし。


 時計の時刻は、深夜2時を示していた。


 そろそろ眠らないといけないのに、眼が冴えてしまってなかなか寝付けない。


「嘘つき」


 小さくこぼした言葉は、薄暗い部屋の闇の中に消えていった。


 私は、小さい頃の出来事を思い浮かべる。


 世界の全てが代わってしまった日の光景を。


 おじいさんとおばあさんが、悲しい顔をしながら私にある事実を口にした。


 私はそれをぼんやりと聞いていて、二人を怒らせたのだったか。


 だって、まだあの時の私にはよくわからなかった。


 お父さんとお母さんがお空にのぼってしまったのよ。


 なんて言われても。


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