07 残された伝言



 一家心中。三人家族。全員死亡。凄惨な現場。血なまぐさい事件。テープ。警察。カメラマン。報道車両。警察車両。証拠品。段ボール。マスコミ。テレビ。新聞。人垣。どこからもれたのか分からない個人情報。事情を知ったかぶりの近所の人たちの証言。勝手な憶測を述べる評論家。


 結局のところ。

 僕はただ怖かっただけだったんだ。


 出来る事をしたのだと。

 そう思いこんで満足したかっただけ。


 身勝手な善意を振り回し、正義を押し付ける親切ぶった醜悪な第三者でしかなかった。


 僕は何も見ようとしなかった。

 何も知ろうとしなかった。


 出来る事はないなんて、逃げていたかったから。

 逃げるための正当な理由が欲しかったから。


 気づけなかった。

 彼女の……君の内心に。


『例の事件の娘さんですけどね。必死に抵抗して逃げたらしいんですよ。重症の体で玄関まで行って、そこで何回かドアを叩いたそうで……。玄関わきに置かれていた電話に、偶然にもその時の声が録音されていたらしくてね。まあ、出血量を見るにもうろうとしていた意識だったろうから、本当に偶然だったんでしょうけど。どこかに電話をかけようとしていたみたいで、友達か警察か、誰でもない誰かか……。助けてって、声が残ってて。そういうのを聞くとやりきれなくなりますよね。今回の事件は、そうなる前に周囲に人間が異変に気付いて……』


 思い出す。

 過去に飛ぶ前に聞いた、いつの間にか入っていた無言電話。

 ちょうど時間は事件のあった頃を示していた。


 そして、追いついた時間の子の今に残された無言電話。

 よく聞けば幽かに遠くで彼女の声が聞こえていた事がようやく分かって。

 彼女が僕の携帯にたどりついあその偶然を、僕は恨めしく思った。


 昨日の彼女は僕には何も言わなかった、テレビではあんなにも内心を暴かれているのに。


 僕の電話が、その録音が、誰が事実を早く暴いたとか、どっちが後でどっちが先だとか関係ない。

 ただ事実がそこにある。

 一つの事を突きつけている。

 彼女が僕に気持ちを残したという事を。


『そうなる前に周囲の人間が異変に気付いていれば、今回の事件は食い止められたかもしれませんが……』


 どこからか流出した個人情報。

 飢えたハイエナの様に得物を求めて這いまわる正義の味方気どりの偽善者達の方が、僕よりも真実に近い所に辿り着いていたのだと、その日思い知らされた。


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