08 繰り返す



 未来に生きてたはずの僕が、過去に遡っているなんておかしな話だけれど、とにかくこれでもう終わりにしたい。


 決意して。

 進んで。

 そして、選んだ。


 僕は再び君と出会おう。

 あのそこそこ有名なビルの中で、階段の中ほどで。

 世界から見捨てられ、忘れ去られたような、悲しいほどに孤独な場所で。





 凛子先輩に頼んで力を使った僕は、またここに来てしまった。


「いきなり人が現れたように見えたから、驚いちゃった……」


 再び繰り返す時の中で、彼女は生きて楽しげに笑っている。


「人間の認識なんてそんなものだよ。目の前できっと誰かが誰かを傷つけていたとしても、何かを伝えたそうにしていたとしても、意識になければそれはその人にとって無かった事になるんだから」

「難しい事、考えるんだね」


 建物の中、温度調節の為に働かされている暖房の、生ぬるい空気が肌を撫でた。

 空気が乾燥していて、何か定期的に飲み物を口にしたくなる。極寒の外よりはマシだが。


 きっと僕と同じような事を思って、凍える様な寒さから逃げて来たのだろう。

 周囲には、空調設備の恩恵を期待して集まったそれなりの人がいる。


 ここにいる全員が、すれ違った誰かが同じ日に死ぬなんて事、全く考えずに過ごしている。


 ただ自分と、自分の周りの少しの範囲だけ。

 考えられても、それくらいしか思い及ばない。


 当然だろう。

 それが人間なんて生き物なのだから。


 関係ないから、分からない。

 分からずにいられる。

 その事実に僕達は、ふいに傷つけられずいつも守られているのだ。


 そう、僕達は愚かだ。

 けどこの世界では、愚かでなければ、とてもまともに、正常に何食わぬ顔をしてなんて生きていけないから。


 人なんていつも死ぬ、どんな理由でも死ぬ。

 馬鹿らしい事でも、憎らしい事でも、悲しい事でも。

 絶えず死んでいるんだ。

 それら一つ一つに涙を流していたら、人が溢れるこの世界でやっていくはできない。


 僕達はだから愚かに出来ている。

 そういう作りなんのだと、理解するしかない。


 だからみんなみんな、大切な事は決定的な何かを間違えてから、失ってから気づくんだ。

 現実でも、物語の中の大半の、数多くのヒーロー達ですら。


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