09 分岐路



 再びの出会いと、楽しいひと時。

 数時間前に繰り返した思い出を再び繰り返した僕達は、やはりあの場所へと辿り着く。


 運命を別かつ分岐点。

 その場所で、僕は彼女が別れを切り出す前に口を開いた。

 

「もう少し付き合ってくれない?」


 彼女は、「え?」と言う顔をする。

 そんな言葉、想像すらしてなかった。という顔。


 当然だろう。重ね重ね思うけど、僕と君は赤の他人。

 ただ、お互いが暇つぶしに時間を使っているだけの、ほんの半時ほどを不意に共有しただけの、今日ここで出会っただけの関係なんだから。


 けれど、僕はそれを超える。

 踏み越える。


 君の方へ向かって。

 酷く受け入れがたかった過去の僕から、遠ざかる様にして。


「見せたいものがあるんだ」


 言って、君の反応を伺う。


「ん……」


 ほんの今まで、話題を切り出すまでは明るく喋っていた彼女は、思い悩む様な素振りを見せて、数秒だけ無言。


 ややあってから、僕を見て口を開いた


「いいよ」


 いいよ。

 か、それを聞くのは何度目になるだろう。


 この少なすぎる出会いの時間でした君との会話の中で、何度その言葉があっただろう。


 どうしようもなく今更ながら思う事なんだけど、彼女はどうして僕なんかにつきあってくれているのだろうか。


 この、今初めてここで会ったはずの僕に。


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