10 二人分の景色
そうして、僕達が訪れたのは見晴らしの良い高台の公園。
日が暮れかけていて、白い雪の積もる街並みを塗りつぶすかのように赤い色を継ぎ足している。
夕日を見ると胸が苦しくなるのはどうしてだろう。
分からない。
僕の胸の内にあるこの現象は、正確に言葉にできるようなものではなかった。
だれか同じ気持ちになっている人がいれば、少しはそんな気分も晴れるのに。
町を眺める彼女は、僕に話しかけて来た。
「夕陽を見るとね、ちょとだけ変な気持ちになるかな」
「どんな?」
「知りたい?」
僕は自分に都合の良い答えが帰って来るのを望んでいる。
卑怯な人間だ。
自分の心の内すら見せずに。
もうそれは何度も思った事だが……果たしてこんな人間が誰かを助ける事が出来るのだろうか。
そもそも僕は僕の為に、彼女をここに連れてきたのではないのだろうか。
高尚な理由も善意も正義も何もなくて、僕がただ嫌だから。
僕の前を通りすがられた彼女が、中途半端に僕に気にならせておいて、それで何も分からせてくれないまま死んでしまうが嫌だったから。
僕は、彼女を思いやっているわけでも、心配しているわけでもなく。
ただ自分の為に、彼女を生かそうとしているのではないのだろうか。
僕は彼女の事情に踏み込んでいる。
けれど、それは彼女の為ではないのだろう。
そんな風に自分勝手にして、人の命を助けて良いものだろうか。
人を殺すのには理由がいる。
強烈な殺意が、強い思いが、憎しみが。
なら、人を助けるのだって、理由がいるんじゃないのだろうか。
高尚で、ご立派で、優秀で、素晴らしく、誉れ高くあるような、そんな理由が。
彼女は手でひさしを作って、世界の果てでも見つけようとするかのように遠くの遠くを見つめている。
彼女が本当に見ているのは、夕日などではないのだろう。
彼女が目を細めて眩しそうにしているのも、赤い光が目に入ったからではないはずだ。
「どこか、遠くに行きたいな」
「例えば?」
「サンタクロースのいる場所とか?」
「なりたいから?」
「ううん、欲しいものを必ずプレゼントしてくれそうだから」
彼女が思う欲しいものとは何だろう。
平穏? 未来?
決して手の届かないだろうそれに想い焦がれる少女は、瞳を閉じて優しくて暖かい幻想の世界へと身をゆだねている。
「夕日、まるで真っ赤な血液の様だね。誰かが流した血をそのままぶちまけちゃったみたい。変かな」
僕は首を振る。
「燃えてるみたいだ。誰かが火をつけたみたいに見える」
僕らは二人そろって何を言ってるんだろう。
なんて物騒なセリフ。
そこには同じ年代の少年少女体が邪推するようなロマンチストなものなんてなにもなくて、ただただ本音をぶちまける場があるだけだった。
「へんな人」
「君こそ」
僕らはそうして二人でじっと、
誰かが流した血で染まった景色を、
誰かが焔で燃やした景色を、
ただ静かに眺めていた。
ただ、そこで分かった事
それは、
彼女がこれから起こる事をなんとなく察しているだろうという事だけだった。
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