04 誘い



 今日、君が死なないようにする事くらい簡単だ。

 それで僕が満足するのかどうかは置いといて、試してみようと思った。


「ここで会ったのも何かの縁だからさ、少し買い物に付き合ってくれない?」

 

 僕の口から出たのは陳腐な言葉だった。

 使い回された感が半端ない。

 ごみ屑にして捨てたっていいような台詞。

 きっと誰も省みないだろう、こんなもの。


 世界から捨てられたような陰気な踊り場の半ばで、女の子をデートに誘うような言葉を吐きかける。いつもの僕とは到底思えなかった。


 彼女は少しだけ考えた素振りを見せて、断りの言葉を放った。

 当たり前だ、誰がこんな胡散臭い人間を隣に置いておこうだなんて考えるものだろうか……。


「……いいよ」


 訂正。断りの言葉じゃなかった。


 彼女が僕に見せてくれたのは、笑顔。

 僕の脳内に保存された顔、最後に聞いた声から想像の翼を広げて創り出した、悲しみの代表格として、根付いてしまった彼女の表情などではない。


 慎ましく慎ましく日陰の中で生きてきて、けれど最後のほんの数日だけ陽の当たる場所で、己をささやかに飾り立てる様な……。そんな野に咲く花のような、素朴でほんのりとした温もりのある笑顔だった。


 僕は勝手に彼女の事を、陰気そうだとか、根暗そうだとか考えていたけれど、その認識を改めなければならなかった。

 というか割と失礼な事を考えていたものだ。


 言葉に出さずに心の中で謝り。

 彼女をエスコートするべくおどけて、先頭に立った。


「どうぞ、お嬢様こちらへ」

「ありがとうセバスチャン……なんて」


 そうだね、執事と言えばセバスチャンが最初に思い浮かぶよね。……なんていう柔軟な態度はとれなかった。


 驚きの発見だ。

 人は本当に見かけによらない。

 僕の場合は第一印象に寄らない、になるか。


 このお嬢様、意外と冗談が通じるタチの様だ。


 しかし問題だ。

 そういう事に温度の低い僕では、彼女の相手として釣り合う気がしないのだが。


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