2ページ

『えぇぇぇぇ!? 嘘だぁ!?』というリアクションを想像して、どうやって口を塞いでやろうかと思っていたけど、実際は全然違う訳で。

「嘘つかないでくださいよ~」

 とあっさりと言われてしまう。いやいや、本当なんだって。ガチで桜小路ありあいるから。

 出来上がったカクテルを斉藤君に持って行ってもらおうかと思っていると、ここでお客様が皆帰ると言うミラクル。何で? そんな漫画みたいな。

「お待たせいたしました」

 お会計は斉藤君に任せて、一先ず出来上がったカクテルをサーブする。

「ジンジャー・ホット・トディでございます」

「ありがとうございます」

 眼鏡の奥が楽し気に細められる。確か桜小路ありあって俺より少し年上だったはず。それなのに少女のように可愛らしく微笑むのだ。人気の理由は歌が上手いだけの魅力じゃないってわけだ。

「美味しい。ふふ、温まりますね」

「ジンジャーが入っていますからね」

「ふふふ、それだけじゃないですけれど」

「え?」

「あ、もしかしてあの子ですか? 私の大ファンだっておっしゃって下さった方」

「えぇ、そうです。とてもありあさんのファンだそうで。サインを渡したら泣いて喜んでいましたよ」

「ふふ、それは嬉しいです」

 三度目の扉のベルが鳴った後、こいこいと斉藤くんを呼ぶ。彼女はなんだか悪戯っぽく笑っている。

「大きな声出さないでね」

「え?」

 斉藤君は不思議そうに小首を傾げるだけだ。ふふふ、斉藤君驚くなかれ!

「ここに、桜小路ありあさんが居ます」

「えぇ~マスター嘘つかないで」

「じゃじゃーん!」

 予想外にノリのいい彼女がバッと帽子と眼鏡を取り外す。

『えぇぇぇぇ!? 嘘だぁ!?』

 そこに響いたのは予想通りの声と、二つの不敵な笑みだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る