第14話 Re:Cycle

 アナタは純粋な心で、僕に言うんだ。


「ラブロマンスは嫌いなの」と。


 そして、こんなことも言うんだ。


「ホラーの方が性を感じるわ。赤い血が流れるんですもの」と。



 あのさ。いっこいいかな?

 子供のフリも、大人びたフリも疲れんだよね。


 これって、取り越し苦労?

 ロンサムくんは一度お休みしようか?


 アナタのソレと、僕のソレが同じなんて有り得ないでしょ?



 ん? そうじゃない?

 え? そう、違うんだ。残念だよ。キミと僕らは慣れ合えると思ったのに。



 再利用〖ReCycle〗

 利用あるモノは使うでしょ?

 利用価値のないモノは捨てちゃうでしょ?


 それじゃ、ダメ

 そんな事しちゃダメでしょ?

 もったいない。でしょ。



 使えるモノは最後の最後まで、根こそぎ使わなきゃ―――


 もったいないよね?



 そう思うよね? そうだよね。




 アホらしいこと言うとらんで、さっさと殺っちまう方が楽しいやん。何ごちゃごちゃ御託並べて言うてんねん。面倒なヤツは消してまうに越したことはないやろ。


 なあ? そう思わへん?



 ******

 

 ねえ。アナタは……

 命の音を聞いたことあるかい?

 目の前で、その音が静かに事切れていく瞬間も見たことがあるかい?

 堪らなく、その姿は痛くて。切なさで胸が奥底から張り裂けそうになるんだ。


 束になった感情は、気にしちゃ終わり。


 飛ばした紙飛行機が雨の重みでゆっくりと低空飛行して、次第に飛ぶことを諦める。

 その瞬間に立ち会ってごらんよ?


 きっと、全てから解き放たれるよ。


 楽になれる。



 楽しいからさ、アナタもこっちにおいで―――



 人なんて、愛しちゃだめだ。

 別れが人を強くするって。


 嘘だね。

 そんなの嘘だ。


 苦しくて、悲しくて、もう誰も愛せない。


 こんなにも苦しいのなら、誰も愛しちゃいけないんだ。そう、思うんだ。


 あたしは、そう思うんだ。



 *****



「なあ…… 慎一郎、蝉時雨って知ってる?」

「あ? なんだ、いきなり? ……で、なんだっけ? 蝉時雨?」

「うん。そう、蝉時雨」

「多くの蝉が一斉に鳴くアレか?」

「そう。その蝉時雨。夏の季語かな」

「それがどうした?」

「最近はさ、嫌なことって、一斉にやってくるものなんだなって、つくづく思うよ」

「そう…… だな」


 慎一郎と僕は店の飾りを用意して、こんな会話を時折する。何気ない会話も今の僕らには、とても大事だと感じた。



「お前らは日頃は飄々としてる癖に自分のこと以外になると、そういう顔になんのな?」

 若林がそんな僕らの会話に横はいりするように、栄養ドリンクを二本手渡してくれた。僕はそんな若林の言葉に怪訝な表情になった。



「なんですか、その言い方…… それって褒めてます? 貶してます?」


「諒、そう噛み付くなよ。別に貶したり、馬鹿にしちゃいないさ。これでも褒めてるんだよ」


「若林さんって、言い方ヘタですか? あと、褒め方もヘタですよね」

 僕のその言葉に若林は子供のような表情で目を細くしてさも嬉しそうに笑う。


「不器用な男ってね。女は唆られるものよ?」

 荷物を両手に持った美夜子が冗談交じりで間に入ってきた。


「美夜子、少しは眠れたか?」


「ええ、もう大丈夫よ」


 この数ヶ月の目まぐるしい生活に、とうとう美夜子がダウンしてしまったのだ。それでも無責任に店は閉められれないと男達が揃って店を任されていたのだが、やはり男だけでは頼りなく、若林の店の数人の女性スタッフが呼ばれた。ひなたはそれで、少々へそを曲げてしまったようで、長身の美人揃いに吐き気がすると、半ば強引に早退きをしたいと、嘆いていたのを若林が宥めたくらいだ。


「ロータスはガールズバーじゃないのよ! なんなのよ! これって見せしめ? チビのアタシへの見せしめ?」


「それを言うなら、当てつけでしょ?」

 慎一郎が煽った挙句、ひなたの舌打ちが聞こえたかと思うと、頬が赤くなるほどの平手打ちをされる事件が起きて、美夜子が呼び出されたのだ。まったくやれやれである。


 はしゃぐ声と物音に散々騒ぎ倒した店は、幸い明るさを前のように取り戻したようだった。

 さらけ出して騒ぐのが、この面子の良いところだな。と、若林が眉根を下げて柔らかく微笑んだ。


 コウが居なくなって、あの取り立て事件以来、聖は姿を隠してしまった。要するに余り物が寄り集まって暑苦しい準備をしていたのだ。


「ちょっとおお! ここにアタシが居るでしょ! 見えてないよ? とか言うんじゃないでしょうね!」

 忘れてた。この子が居ましたね。諒は半笑いでよく冷えたミルクティーをひなたの手前のテーブルにそっと置く。


「失礼しちゃうわよ! こんなにカワイイのに忘れちゃうとか。もったいないでしょ! みんな、一体全体、どこに目をつけてるの?」

「え? ここ?」

 そう言いながら、慎一郎が両手で顔を支えて、自分の目をぱちくりとさせる。


「きいいいいいいい!」


「うははははは」


「乾いた笑い方すんじゃないわよ! それから猿は黙ってて!」


「あー、はいはい」


「それが腹立つのよ!」


「仲良いのは良いんですがね…… 手を動かしていただけると助かるんですけどね?」



 僕の呆れた声はきっと、ふたりには聞こえてないと思う。だけどね、それでもいいと思ったんだ。そんな時間も必要だと思うんだ。




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