第13話
一旦自室に戻って昼食を取った蜜月は、庭の塀際に有る射撃場でハクマに武器の使い方を教わった。
まずは拳銃に実弾を込め、ダルマみたいな形のベニヤ板を二メートル離れた場所から撃つ。反動と音に驚いたが、七発全て的に当たった。
「全弾命中おめでとうございます。素晴らしいですね」
蜜月を誉めるハクマ。
的が目の前に有るから当たって当たり前だと蜜月は思ったが、普通は当たらない物らしい。
それから十メートル程後退して、歩兵銃に実弾を込めた。
蜜月が的に近付いている為に射撃訓練が出来ない自警団の若者達がその様子を眺めている。女学生がどうしてこんな所で銃を撃っているんだとか言っている。
気が散って歩兵銃に弾を込める手がまごつく。
「あの声が聞こえているんですか?」
蜜月の様子がおかしい事に気付いたハクマが察する。
「え? あ、はい。初めての訓練だから集中したいんですけど、自分の事を言われるとどうにも……」
一生懸命実弾を触っている蜜月と若者の距離は、十メートル以上離れている。
普段ならちょっとした地獄耳で済むが、今は拳銃を撃った直後。未経験者に事細かに説明しないといけないから蜜月もハクマも耳栓をしていないので、火薬が破裂した音の影響で耳鳴りがしている。射撃音に馴れたハクマでも音が聴き取り難くなっている。普通は聞こえない。
「さすが妹社ですね」
「え?」
ハクマが小声で呟くと、蜜月はキョトンとした。やはり聞こえている。
「いえ。何でもありません。戦場が騒がしい事は良く有ります。気にせずに集中しましょう」
「はい。でも、袴じゃおかしいのかな」
「おかしくはありませんが、近代的な戦いをするには動き難いかも知れませんね。歩兵銃を扱う訓練では、走りながら撃ったりするので」
「そうですか。じゃ、私ものじこちゃんみたいな格好をした方が良いんでしょうか」
筒袖は違うが、袴は女学生が学校に通う時に着る物らしい。
少女の普段着は和装が普通だが、最近は洋装も増えて来ている。
しかしそれでも、のじこの軽装は、女子の着る物としてはやはり珍しい。脚が丸出しなのでかなり恥ずかしいが、動き易さでは一番だろう。
「訓練の時だけなら、それも良いかも知れませんね。まぁ、衣装は蜜月さんにお任せしますよ。――弾は正しく込められましたか? では、撃ってみましょう」
神鬼を倒す為の歩兵銃は物凄い威力だった。
装弾した二十六発の内、的に当たったのは五発だけだったが、それだけでベニヤ板はズタズタに引き裂かれていた。
反動も拳銃の比ではなく、腕や肩が痺れた。的から外れたのも、反動で銃身がブレたせいだった。
「これから毎日射撃訓練を行い、命中率を上げて行きましょう。そして、使った道具は綺麗にして片づけなければなりません。それは武器や防具も同じです」
次は銃の分解掃除、組み立てのやり方を教わった。将来的には目隠しをしていても出来る様にならなくてはならないそうだ。
刀は小型神鬼との接近戦になった時に使う物だが、今の段階では使わないらしい。いくら妹社でも、蜜月は素人。半端に知識を持って刃物を扱うと逆に危険だとハクマは言う。
取敢えず今は銃の扱いに慣れ、神鬼の接近を許さない戦い方を覚える事が先決だと言われた。
「次は――場所を変えて、体力測定をしましょう」
五十メートルダッシュや反復横飛び。
筋力測定。
それ以外も色々とやった。
「蜜月さんは、何か運動をなさっていましたか?」
少女が叩き出した数値を見たハクマが感嘆の息を吐く。
「いいえ、何も」
運動が出来る環境ではない場所で育ったし。
「そうですか。なのに、のじこさんと比べ、多少劣っている程度の数値とは」
「あんな子供に負けているって事は、良くないって事ですか?」
「違います。何もしていないのに、戦い慣れた彼女と同等の体力が有ると言う事です。彼女と同じ様な動き易い格好なら、数値はもっと良くなるでしょう」
「はぁ」
測定をしている内に日も傾き、雛白邸が夕日で赤く染まって行く。
「では、今日はこれくらいにしましょうか。明日からはのじこさんと一緒に訓練を――」
『各隊は速やかに戦闘配置についてください。中型甲二体が、六時方向観測隊により発見されました』
女性の大声がハクマの言葉を遮って庭中に響いた。
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