手荷物預かり所

音崎 琳

手荷物預かり所

もしもし、そこの旅人さん

ずいぶん荷物が重そうですね

どうです お代は頂きませんよ

ちょっと預けていきませんか


何 結構と仰るのですか

遠慮することはないんですよ

ほら、あなたもご覧のとおり

ぼくも暇していたのですから


おや、行ってしまうのですか?

どうか預けていってください

怪しい者ではありませんよ

ちゃんとお預かりいたしますから


それほど大切な荷物なのですか

どうにも辛そうで見ていられない

では、預けていけとは言いませんから

ぼくに手伝わせてくださいませんか


どうしてそんなに済まなそうな顔で

結構だと仰るのですか

あなたはたいそう疲れているし

ぼくはこんなに元気だというのに


ねえ、本当に行ってしまうの?

あなたはさっきからそう言って

荷物を何度も背負いなおすけれど

自分では気づいていないのですか


あなたはそう言いながらずっと、ずっと

そこから動けていないのですよ

やはりあなたの小さな肩には

その荷はどうにも重すぎるのです


ほら、ぼくに渡してください

ちゃんとぼくにだって持てますよ

あなたの辛そうな姿を見るより

どんなにか楽なことでしょう


それでもあなたは行くのですね

ひとり荷を背負いどこまでも

いったいどこまで行くのです?

行く当てもなく歩くのですか?


わかりました

どうしても、あなたひとりで背負っていくなら

せめてひとりにならないで

ぼくも一緒に行かせてください


ぼくには何もできないけれど

あなたが苦しいのはわかるから

せめて隣を歩きましょう

黙って隣を歩きましょう


それではあなたの苦しみは減らない

それでも隣を歩いていたい

あなたの想いを知っている人が

一人でもいるのだと示すために


辛い時には荷物を下ろして

大きく伸びをしてください

荷物ならば失くさないよう

僕がちゃんと見ていますから


苦しい時にはそう言って

立ち止まればいいのです

しばしの間、瞼を閉じて

ぼくに寄りかかればいいのです


ずっと荷物を背負っていくあなたを

いつか、少しでも支えられるように

今はただ隣を歩いていましょう

あなたの隣を歩いていましょう

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手荷物預かり所 音崎 琳 @otosakilin

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