第2話 犬と狗
二人は嫌厭としていて腕を組み、互いに向き合うどころか足先すら向き合うことはないまま、テーブルに座った。
レンセイは看板を下げ、ショーウィンドウの片隅にある"open"の見出しを"closed"にひっくり返した。
「2つのうち1つは店にありますから、どうぞ見てってください」
レンセイはその人形の1つ、漆のような黒いぬいぐるみをを彼女らの机に置いた。
「お値段は?」
「高くつきます」
「あっそ、まぁいいわ。どんな値段でも買うから」
そう言うと黒髪の女はクレジットカードを取り出した。彼女の服装と同じようにカードは黒色を呈しており、彼女がどのような階級の人間かを表していた。
「クソかねもが」
「あら何か言いました?おねえさま?」
「うっせぇ」
金髪の少女はそっぽを向いた。三日月のマークがあしらわれた、コウモリの翼を持った小さなユニコーンが、彼女の前に差し出された。
「初版のクレセント・グリマーです。デイライト・フラッシュの方はまだ入荷していませんので、申し訳ございません。一応お取り寄せ致しましょうか?」
金髪碧眼の少女は「入荷したら教えてくれ」と言って、コーヒーを啜った。
「それはそうと店の主人。ここにドレイズとか言った医者はきたか?」
黒髪の女は、赤い眼をレンセイへと向けた。その目は今の今まで人形を抱きしめていた少女の顔ではなく、冷たい、仕事をしてきた人間の目だった。
「私たち2人は近い職種でな。あまり出回らないある品物を探しているんだが…」
レンセイは咄嗟に昨日の男を思い出した。名は語らなかったが、確かに医者や学者といった風貌をしており、その職に付いていると言ったとして、何らおかしくないことを彼は気づいた。
「…いえ、この前開店したばかりなんで、そんな人はいないかと」
「開店じゃなかったらいるんだな?」
金髪碧眼の女は口を隠すように口の前で手を組んだ。レンセイはこの女たちが何を目的としてここにいるのかは分からなかったが、眼の毛細血管が怒張する程に追い求めていることは、その場の雰囲気で理解は出来た。
2人の目は赤い色をしていた。
レンセイははっきりと言った。
「お客様のプライバシーに関わりますので顧客の情報はお話出来かねます」
女らは目を見合わせその発言を彼の意地だと心に留めた。
「貴方の立場は理解出来たわ。ではある人形を探しているの」
金髪碧眼の女は声を柔らかくし、組んだ手を外した。
「いったいどのような人形でしょうか?」
「そうね。亜麻色の髪で、白くミルクを落としたようや肌色」
「それでいて、夕焼けの光を浴びても色褪せない透き通る青色の目」
「…」
レンセイは二人の発言を聞いて少しずつ、何を求めているのかわかり始めた。
「そいつの名はキャサリン。ほら、丁度そのショーウィンドウに飾ってあるような陶器の妖精だ」
金髪碧眼の女は指を差した。
そこには、カーテンの向こう側に隠れていて、見つかることをその人形自身が恐れているような、少女自身のその背が何故か苦しく感じるほど小さく見えていた。
黒髪の女は言った。
「私の名前はキリヤマコト。ちょっとした警察官みたいなことをやってます。そして、この金髪の女は私の姉」
「ナナコだ。探偵らしいことやってる」
「私たち二人はその人形を探し、管理する必要がある」
「そこで、あなたにはアタシ達のどちらかにその人形を引き渡す義務がある」
「安定した世界のためか」
「それを待ってるクライアントのためか」
レンセイはキリヤ姉妹のその話を聞いた時、少しばかり幼少期の頃を思い出した。この二人と似たような何か、大切な出来事があったのだが…。
「わかりました個別になぜこの人形が必要なのかを訪ねに行きたいと思います。お忙しいと思いますが、ご都合のいい日にち時間を教えていただきませんか?」
レンセイは手帳を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます