第5話ネットの友情なんて、薄いベニヤ板みたいなもんだよね

 ネットの友情なんて、薄いベニヤ板みたいなもんだよね。

 八重樫夢芽やえがしゆめは、ベッドの上でノートパソコンを開けながら、胸中で自嘲した。

 若干15歳にして、浮かべた表情はニヒルな笑み。しかしそれが嫌に板についている。

 それもそのはず――と言わしめるだけのものが、夢芽の周囲を取り囲んでいた。

 白い壁に白い天井。おまけにLEDまで白――と白一色の壁に囲まれているそこは、病室。個室をあてがわれている夢芽の周りには、数年間の間で溜めた私物が積み上がっており、そのどれもが触れなくなって久しいのか、色がくすんでいる。

 過度な運動を許されるはずものなく。同年代の少年と比べても、小柄でやせ細った体に、黄緑色の入院着。髪は面倒臭いのか、肩まで伸ばしているものの、見てくれを気にする相手もいないため、寝癖がつきっ放しだ。

 そんな夢芽が見ているのは、ノートパソコンの画面。画面では、何やら険悪なムードになっているギルドのメンバーがちらほらと。

「昼間からゲームしてるニートが何粋がってるんだか」

 少女と見紛う愛らしい顔立ちから生まれるのは、毒そのもの。自分のことは棚に上げて、夢芽は興味を失った画面から視線を逸らした。

「……はぁ。面白いことないかなぁ」

 ぽつりと漏らした本音。

 自分の命が長くないことは知っている。

 だからこそ、面白いこと、知りたいことが夢芽には山ほどあった。

 せめて――。

「なにか、来る?」

 ゲームをしていても一向に悪くならない視界に、何かが写る。

 それは小さな黒点から、やがて大きくなり、ついには姿まで見えるように――

「――人ぉ!?」

 齢15歳。夢芽は生まれて初めて、翼を持つ人間を見た。

 その影は、夢芽の病室へと一直線に向かってくる。

「なに、なになになになにぃぃぃぃっ!?」

 それは――少年だった。

 その身を包むのは、黒のボンテージ。

 あまりの光景に脳がフリーズする夢芽の前で、窓ガラスがぶち破られる。

 ソレは――翼を持つフライングなヒューマノイドは、血だらけになりながら満面の笑顔を浮かべて、夢芽に言った。

「おい、セックスするぞ!」

 夢芽の精神は、限界を迎えた。

 ぷっつりと消える意識の前に、何となく思ったのは。


 面白くなりそう。


 そんな、予感にも似た確信だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る