第3話 世の中のエロは、カリビアンコムで語れ

 世の中のエロは、カリビアンコムで語れ。

 かつてレーヴに性技を教えた師は、そう言ってドS女の性奴隷となった。

 ――駄目じゃん。

 犬のようになった師の姿を見て、レーヴは悟った。

 守られた性では駄目だ、と。

 もっと奔放になるべきだ。でなければ、肉食系に骨までしゃぶられてしまう。しゃぶるのはこっちのはずなのに!

「まず、我々淫夢族の仕事相手は人間だ。これはわかるな?」

「そりゃあ」

 わかる。

 人間相手に性を絞るのが、淫夢の生存意義レゾンレーテルなのだから。

「では、その人間たちが築いている社会は何によって守られているかわかるか?」

「偉い人だろ?」

 トラムは頭を抱えていた。

「……いや、間違いではないが。そこか。そこからやり直さなくてはならんのか」

 しかも何やら呻き始めた。

 レーヴとしてはさっさとして欲しい。一刻も早く人間の社会へと趣き、性という性を貪り尽くしたくてたまらない。

「まぁ、大切なことだけでいいか」

 トラムは早くも投げやりになった。葛藤の末、何か思うところがあったのかもしれない。

「レーヴ、お前の言ったことは確かに間違いじゃない。だが、その偉い人を生み出しているものは、人間たちの集合体――つまり、“社会”だ」

「しゃかい?」

「そうだ。人間たちはその社会の中、秩序を守りルールに則って性活している。国や民族ごとに違いはあるものの、その根本は早々変わらない。そしてレーヴ、ここからが大切だから良く聞くんだ」

 何やら大切な話らしい。

 さっさと終わらせたいレーヴは、格好だけでも取り繕うことにした。


「我々淫夢族は、常に人間と共に寄り添い、彼らと共に生きてきた。我々は既に、人間無しでは生きられない生命体だ」


 知るか。

 レーヴは吐き捨てる。

「あいあい、わぁーったわぁーった! ルールを守って乱交してくればいいんだろ!」

 子供から性を遠ざけるべき。

 性教育は大人になってから。

 でも結婚は子供の内から出来るよ。恋愛禁止もしないね。

 そんな矛盾なんてクソくらえだバーカ!

「じゃあこれで研修終わりだろ!? さっそく人間の世界に行ってくるぜ!」

 言うや否や、レーヴは翼を広げて飛び立っていく。

 もはやレーヴの脳内には桃色世界――むくつけき男たちや綺麗な女たちに犯し犯される光景しか繰り広げられていない。

「ぐへへ」

 いざ行かん、我が戦場へ!

「おいこら待て、レーヴ!」

 後ろから、トラムの声が突き刺さる。

「お前の行く日本じゃ、乱交は刑法違反だからな! わかってるだろうな!」

 わかっているどころか、レーヴの耳には何一つとして届いていなかった。

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