第2話 どこの世界にもブラックってあるよね

 くっそ面倒くせー。

 レーヴは胸中で毒付きながら、反省室と書かれた部屋の中で嘆息した。

 打ちっ放しの壁や天井に、机と椅子がひとつずつ。それ以外は何もない部屋だ。

 社是を重視しない奴にはお仕置きだぞ♪

 それがレーヴの入社した会社の社風だった。あまりにも理不尽。

「ったく、別に自分の好きな奴をヤったらいいじゃんよ」

 と、自由な性活を目指すレーヴはそうのたまう。

 そもそもおかしいのだ。

 人間にとって、食欲・睡眠欲と等しい欲求のはずの性欲が、どうして締め付けられなければならないのか。

 開放的になればいいのだ。それこそ、道ばたを歩く異性に見境無く飛びかかるくらいに。

「そんな考えだから、反省室に入れられるんだ、お前は」

 という言葉と共に、鉄製の扉が開く。

 現れたトラムは、中間管理職特有の疲れた顔をしていた。

「休んだら?」

「休めるのならとっくの昔に休んでいる。有給が使えないんだ」

 なんというブラック。 

 なんというありがたい使い捨て精神。

 レーヴは胸中でトラムに合唱する。

「ひとつ言っておくが、自由に性活をしたければ勝手にして構わない」

 ただ、とトラムは後につける。

「副業としては駄目だ。やるなら無料でやれ」

「はぁ? ただでオレがヤらなきぇいけねぇのかよ!」

「うちは副業が禁止だからだ」

「……ジーザス」

 なんと世知辛い世の中。

 この会社は一周ほど遅れているに違いない。

 レーヴが天井を仰ぐのと、トラムが嘆息するのは同時だった。


「レーヴ・トランベル。お前のような考えの奴は、毎年一定数はいる。いいか、これから現代インキュバスの生き方というのを教えてやる」

 トラムはそう言って、伊達メガネをくいっと上げた。

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