いんきゅばすは友達が欲しい

あさき れい

第1話 少年は、いんきゅばすである。

 こいつ、ちんこ小さいんだろうなー。

 目の前で社是を読み上げる青年を見ながら、レーヴはつまらなさそうに顔を歪めた。生まれてから十四年。少年と呼ぶんで相違ない歳のレーヴにとって、会社がどうのという説明は、つまらないの一言に尽きる。

 短く切りそろえた茶色がかった紙に、つり上がった目端。日に焼けた肌は、いかにも勝ち気な少年そのもの。

 そんなレーヴが退屈と戦いながら欠伸を噛み殺しているのには理由があった。

「我が社は淫夢族の社会的貢献を目指し組織された、協同組合だ。我々のイメージ払拭のため、そして人間との共存のためにも節度を持って――」

 淫夢族――古くはインキュバスやサキュバスなどと呼ばれ、世界各地に姿を見せる一族を差す。現在では何故か一部のネットで別の意味を差すようにもなっているため反感を持っている若い淫夢族も多いが、源流はそれだ。

 レーヴはそんな当たり前の説明をくどくどと話す上司――トラムの話をほとんど聞いちゃいない。

 生真面目な青年をそのまま形にしたような出で立ちのトラムは、ダークグレーのスーツに青いネクタイ。艶やかな金髪をオールバックにし、その自慢の額を見せつけている。

「――それ故に、我々は人間と共に」

 ぴくり、とレーヴは長い耳を反応させる。

「その性活を豊かなものとし、またお互いにとって良い社会を作るべく」

 性活。

 そう、性活である。

 性まみれの生活と書いて、性活。

 くんずほぐれつ。

 脱いだり出したり。

 突いたり突かれたり。

 レーヴが望んでいたのはまさにそれ。

 爛れた性活ばっち来い。

 思春期の青年よろしく、猿の如き性欲でもって、レーヴはただただその一点だけを望んでいた。

「くひひ……」

 子供であるが故に、禁止された性活動も、精通した今とあってはもはや解禁。思春期の少年の如く猿のような性欲でもって、レーヴは脳内に桃色空間を瞬時にして築いていく。

 ――と。

 そんなレーヴが知らず漏らしたあまりにも気持ち悪い笑いを聞き止めたトラムは、

「レーヴ・トランベル。質問だ。淫夢族の意義とは何か?}

「むっ」

 至福の時間を邪魔されたレーヴは、むっとした表情を浮かべるが、それも一瞬のこと。

 馬鹿げた質問を投げてきた上司をぎゃふんと言わせるべく、レーヴにとっての模範解答を口にする。

「性奴隷にすること!」

「ばっ……!」


 ――バッカ野郎があああああああ!!


 トラムの怒声が、社内中に響いた。


 時は現代。

 これは、人間と淫夢族が共存する、少し変わった世界のお話である。

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