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「それは嬉しいですね、ありがとうございます」

「ふふふ」

「役作りって、次はどんな舞台をされるんですか?」

「えーっと、サスペンス系? ですかね」

「サスペンス?」

「まだ情報解禁していないので、これ以上は僕の口からは」

 そう言って口の前で両手の人差し指を×に重ねる。

 もとから端正な顔立ちのマリオ君だけど、絞っているからか、その目つきがいつもより鋭く感じられた。にっこりと微笑んでいるのに、どこか謎めいた男性らしさがかもし出ている。一体どんな役柄なんだ。気になる。

「私にでも教えてくださいませんか」

「マスターにでも教えられません」

「気になりますね」

「公演は二月下旬ごろの予定です。またご案内に来るのでその時までのお楽しみと言うことで」

 セリフみたいに言い放ってから、また素に戻って微笑む。マリオ君も変わったなぁ。堂々としてる。

「それはそうと、役作りって何をしているんですか? 減量、とかですか?」

「あ、はい。もちろん減量と、あと筋力付けてます」

 筋力? 本当に? そんなにガリガリに見えるのに?

「いや、これでも脱いだら凄いんですよ」

 えー、信じられないな。

「本当ですって」

 そんな困った表情も可愛いなぁ、マリオ君は。

「身体を動かすのは好きだから、運動するのはいいんですけど、食事制限の方が辛いですね」

「初日公演までまだありますけれど、大丈夫ですか?」

「大丈夫とか大丈夫じゃないとかじゃなくて、頑張らないといけないですから」

 ふと出た俺の言葉に、さらりと返したマリオ君の言葉は全然さらりとしていない。その瞳には覚悟が宿っているわけで。さすが。

「でもさすがにお正月にみんな集まっているのに一人だけご飯食べられないのは辛かったですね」

「ふふ、確かにそれは辛いですね」

「だからこそ、次の舞台も成功させたいです。僕のせいでダメになるなんて絶対嫌ですから」

 そのマリオ君の表情に、絶対大丈夫だな、と俺は確信をもつわけで。

「ふふ、この公演が終わったら沢山好きな物食べたいです。マスターのお酒も」

「ふふ、もちろんです。いくらでもマリオ君の為に作りましょう」

「ふふふ、今からそれが楽しみです」

「私も、今から次の舞台が楽しみです。ですから私の為に一枚、チケットを用意してくださいませんか」

「っ! もちろんです!」

 早くその時が来ないかなぁ、なんて。

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