第37話

「で、どこ行くん。結構ここ広いし、隠し部屋の一つや二つありそうやで」

「うん、芳一さんの所かな。頭の匂いは、薄いから多分その隠し部屋と思う。で、乙ねいの匂いが火薬の匂いと一緒にするねん」

「ほう、やばいかな」

「わからん。取り敢えず、芳一さんが見つけやすそうや・・・で、二口は、一緒におったお姉ちゃんは、どうしたん」

「えっ、ああちょっと話きいて、ここまで案内してもろてから放ってきた。そこらで動けんと固まってるやろ」

「そうなん。で、どんな話」

「どんな話て、大したこと知ってなかったわ。こいつら皆、俺らの事ちょっと訳ありの旅芸人やと思うとるみたいや。俺と芳一さんを殺てもって、乙ねいとキクはどこかに売るつもりやったみたいや」

「ふーん、そうなんや。それだけの事、ずいぶん時間がかかったな」

「そんなん、俺も毒飲まされそうになったんやで、大変やったんやからな・・・そんなことより、集中せなあかんやろ」

「はっ、これだけばたばた倒れとる奴がおって・・・芳一さんが殺ったんやろが。倒れとる奴を辿って行けば嫌でも芳一さんの所に行けるわ」

廊下に折り重なるほどの躯を避けながら二人は、進んだ。

「それにしても、叫び声もなんも聞かんな」

「敵ばっかりやから迷いがないからな、瞬殺とちゃうかな」

暫くして、庭にひらかれた廊下に出ると芳一が二人を相手に立っていた。キクが二口に訊ねた。

「とめへんの」

「ああ・・・そこのもん、動くな」

その声を聞いて、相手の二人は動きを止めた。芳一が、その声に気付いて、キクと二口のの方を振り返った。ぞっとするような気を放っている。

「何や、来たんか」

「はい、止めん方がよかったですか」

「いや、そろそろ飽きてきたところやった。おおきにやで」

「それやったら、ええですけど」

殺りだした時の芳一は、どこかそれ自体を楽しんでいるように思えることがある。いつもは、八咫や乙に押さえてもらっているが、こんな時は、下手にとめて大丈夫なのかと不安になる。

「芳一さん、乙ねえが何処にいるか見当付いてますか。何や、乙ねえと火薬の匂いが同じ所からしてるような気がするんやけど・・・」

「そうなんか。あの蔵の中から声がするからこっちに来たんや・・・多分一人で楽しんどるみたいやけどな」

「楽しむて・・・」

三人で、庭を横切り蔵の立ち並ぶところにでる。もう三人を止めに入る勇気がないのか、大方やってしまったのか誰も止めに来る者はいない。蔵の前で、芳一が

「乙、そろそろ出て来い」

「聞こえてるんかな」

すると、いきなり蔵の扉から二本の腕が付き出された。

「ああ、この辺に閂があると思もてんけど・・・」

「ああ・・・もちょっと右かな」

手探りで閂を手にすると、帯でもとるように簡単に引き抜いた。観音開きがゆっくり開くと、場違いなぐらいにニッコリ笑った乙がいた。

「なんや、みんなお揃いやったんやね。お頭は、まだなん」

「ああ、まだかかって、はるようや」

「なら、なあ、ちょっと手伝うて」

「乙ねえ、何すんの」

「うん、そこの奥に火薬やら銃やら物騒なもんが、あるんでな。一発、ちゃらにしてやろうと思うてん」

「どうせやったら派手にやろか」

「ああ、ここやったら近所に迷惑かけんでもええやろ。乙、やりたいだけやってみ」

「ああ、お頭はどこにいてはんのん」

それを聞いて、キクと芳一が周囲に気をはった。

「母屋の右隣の離れの下・・・かな。キクどう思う?」

「・・・俺もその辺やと」

「なら、その辺をよけたらええね」

八咫がいる建物をのけて、乙の言うままに仕掛けをして行く。この屋敷全部、ふっとばす位の火薬があるようやった。

「花火みたいに綺麗にしたいなぁ」

乙が楽しそうに仕上げにかかっている。その時、芳一は、奇妙な叫び声を耳にした。

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