第26話

屋敷の中で案内されたのは、育ったアオメも入った事のない地下の一室

「ここもいつまでも安全なわけやない。少しの間、時をかせいでお前ら五人を逃がそうと思うてる。ついては、八咫の鏡も任せるつもりでいる」

五人して、お頭がなにを言っているのかよくわからないと顔にでた。それを見て八咫がにっこり笑っている。

「もっとちゃんと代替わりの儀式位したかったんやが・・・アオメ、お前がやってくれんか。それと芳一、乙、二口、キクお前らには、世話役を頼めんかな」

五人がぽかんとしているのを見て、スバシリが

「お頭、もっとこうちゃんと言えんか」

「そんなもったいぶって言うような事やない。アオメ、引き受けてくれんか」

「俺が、そんな勿体ない・・・」

「勿体ないなんて話やない。これはな、お前に俺の尻拭いをしてもらおうって話やねん。とんだ貧乏くじやけど、この通りや頼む」

八咫が、アオメに向かって頭を下げた。

「止めて下さい。俺が、頭の頼みを断る事なんて出来んの知ってはりますやろ。そんで、俺は八咫者やない。ここには、芳一も神付の二口もおります。それを支えることは幾らでもやらしてもらいますよって」

アオメが頭を下げて、泣いている。八咫がその頭を優しくあやすように撫でて

「変わらんな、昔から・・・。自信もってええんやで、お前は十分やって来た。どの里の者よりも里の為に働いてきたやないか。そのお前に、難儀な仕事を頼むんや。こいつらの為にも引き受けてくれ。そんでどうしても他の者に任せた方がええと思うんやったらお前から譲ってくれ。時間がないや。・・・頼むわ」

もう一度、アオメの眼をじっと見ながら八咫は、頼むと口にした。スバシリも他の四人も黙ってアオメの言葉を待っている。暫くして、アオメが小さくこくっと頷いた。

「おおきにな、良かった。他の者も、世話役引き受けてくれるか」

そう言われて四人もただ頷くより他なかった。すると八咫は懐から古い錦の巾着を取り出した。袋を開けると小さな丸い銀色の鏡が出て来た。どこにでもありそうな曇った銀の板のような物が代々守り続けられてきた宝鏡であったとは、誰も思いもしなかった。

それをずいとアオメの前に押し出して

「今日から、今この時からこれはお前のもんや。納めてくれるか」

アオメは、鏡を押し頂くと袋に入れて懐にしまった。そして、顔を上げて驚いた。それぞれの姿にその者が持つ気のような熱のような、何かが見える。が、サキヨミとスバシリには、何もない。

「これは・・・」

はっと気が付いたが後は口には出来ない、口にだせば全部ほんとの事になる。

「そうや、これが命と言うんやと俺は思う。人それぞれに見え方は違うようやけどな、俺も、スバシリにも後がないんや」

「俺・・・」

「もう、泣くな。泣いてる暇は無いで・・・」

サキヨミは、芳一ら四人の方に向き直ると頭を下げて

「何の訳も話せんままに、世話役よう引き受けてくれた。礼を言う。・・・で、アオメの事よろしゅう頼む」

言い終わると、壁の隅を軽く叩いて回ると急に立ち止まって力を入れるとそこにぽっかり地下への入口が現れた。

「ああ、ちゃんとあったな。ここから里の外に出れるはずや。長い間使ってなかったんで大丈夫とは言い難いが、取り敢えずお前らは助かる。ここから行け」

スバシリは、作り置きの荷物を持たせてそれぞれの背を押した。まだ、ふらふらしているキクは、乙の背中におぶさる事になった。最後にアオメが渋りながらも入口にたつと、サキヨミが何も言わずに抱きしめた。そして、背中をぽんと押すと

「ああ、そうやお前ら以外になアカメも生きとる。ここから江戸を目指せ、お前らやったらすぐに見つけられるやろ。後の事はなんとかなる。・・・アオメ、お前がいてくれてほんまに良かった」

その言葉を引き継ぐように

「サキヨミは俺に任しとけ、ほなな」

スバシリが、そう言って扉を閉めた。

スバシリがサキヨミに声をかける。

「お疲れ様やったな。そやけどあいつらは、大丈夫や心配すんなよ」

「ふん、そんな事は解ってるわ。誰にもの言うてるねん。ちゃんと先は、読んであるわ。それよりお客さんが、お越しのようや。最後の大花火あげるよって、ちゃんと側にいといてくれよ」

地下への階段あたりでの気配が強くなっている。

「ああ、お越しやな。手でも繋いどくか」

「そうやな、それもええな」

「あほ言え。そんな事せんでも、何処まで行っても一蓮托生や。派手にやれや」

「お前から言うてきたのに・・・まぁええわ。ほな、いくで」

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