第25話
思っていたより時間がかかる。今まで外での仕事は、一人でする事が多かった。誰かに助けてもらう事もないが、こんな風に誰かを守りながら闘う事も無かった。少し戦って、一つの動作が半拍遅れる事に気が付いた。じりじりしながらスピードを上げる。手持ちの道具も無くなって、相手の持ち物を奪いながら急所をついていくのだが、相手の懐に入って目から脳髄を射し潰そうとしているとそいつが無暗に手を振って危うく背に負うキクにあたりそうになった。一人でない事は煩わしいと思ったが、背に負う暖かさに何とか生き抜かねばならんと思わされた。自分が前に進みながら後ろから二口が付いて来ているかも気にかける。二口は特殊な神付だが、まだ幼くて神付の部分が使い切れていないのか何かあると直ぐに術が解けて来る。それでも、もともと身体を動かすのが得意なのだろう。相手の動きを見切って鉈をふるって身体を使って応戦している。どんな事をしてもこの二人を館に連れて行かねばならない。あと、この角を曲がれば館の大門、と曲がってそこに大勢の敵を見つけて身体が竦んだ。大門を取り囲んでいた男達が、こちらに気が付いたようでゆっくり近づいて来る。身構えていると反対側の角から人影が勢いよく飛び出して来た。
「芳一さん、ここにもたくさん居るで」
「あと、少しや気張れ」
男達の向こうではっきりと姿は見えないが、声からして芳一と乙だろう。
「芳一、乙、無事やったか」
「ああ、アオメさんか。何とか」
「いやぁ、アオメさんって」
アオメの存在が、一瞬二人の気をそいだ。その瞬間、乙が男に足を取られた。見る間に男達が群がって来る。普段なら男が束になっても吹っ切る力があるのだが、先からの戦いのために力が鈍ってきていた。ここで何とかせねば引きずり込まれて潰される。芳一が、アオメが乙を救けようと動こうとするのだが、自分の周りの男達を押しのけることが出来ない。今にも男達に飲み込まれようとしている乙を目の前に気持ちは焦るがどうする事も出来ない。その時、館の大門が開いた。
「お待たせやったな。まぁ、真打登場といこか」
八咫が、両手に持っていた起爆札を器用に左右に投げ分けると、周囲の男達が嘘のように飛ばされ倒れて行く。それに目をやっているうちにスバシリが乙を門の内に連れ込み、次に二口の手を引いて門の中に入っていた。
「おら、お前らは自分で入ってこいよ」
その声で、我にかえるとアオメと芳一がはじかれたように大門の中を目指して走りだした。
八咫はそれを見届けると
「遊びは終わりや。暫くこれで大人しいにな」
爆音とともに火柱が館の周囲を包み込んだ。周りの男達が身体ごと飛ばされ、白煙が上がる。その頃には八咫の姿は大門の内に消え門は固く閉ざされていた。
館の前栽に座り込んでいるアオメ達にスバシリが声かける。
「皆、中に入ってくれお頭から大事な話がある」
それを聞いて、アオメはおずおずと申しでた。
「すいません。俺、ウンデの事が気になるので・・・家に帰らして貰えませんか」
「・・・勝手は許さんで、早よ中入り」
「・・・はい」
のろのろと五人が屋敷の中に入って行く、その後ろで八咫がぼんやり柱の隅に目をやっている。
「大丈夫やろ」
スバシリが声をかけると、八咫はにっこりわらって
「あたりまえや。俺が先を読んだんや、来年もここにやって来てもらわな」
燕の巣に雛の頭が見えていた。
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