第20話

「お頭、アオメが参りました」

「通してくれ」

「アオメ、お疲れやったな」

アオメは、八咫の労いの言葉を聞くと平身低頭その場に這いつくばった。

「申し訳ございません。ガンプクさんを見つける事が出来ませんでした」

「そうか。ちょっと無理な事を頼んだな」

「・・・」

「お頭、その言い方」

「あぁ、お前には無理って事やないんや。お前でもむりやったかと思ったんや。気悪うせんといてくれな」

「いえ、そんな事は・・・もう一度、ガンプクさんを探しに行かしてもらえんでしょうか」

「いや、もうええ」

「あっ、申し訳ございません。出過ぎたこと申しました」

アオメは、また頭を下げて動かなくなった。スバシリが八咫の方を見て促すように首を傾げた。

「アオメ、お前を信用せん訳やないんや、ただな・・・ガンプクは、もうこの世にはおれへんのや。もう、亡くなったんや。ガンプクの最期に立ち会えたらと思うて、お前に行ってもろうたが・・・そう言うこっちゃ」

「俺が、見つけてたら・・・」

「・・・お前も八咫者やろ、生死はすべて決まっている。八咫さんの言う通りなんや。それをどうにか出来るて」

「それでも、・・・」

「アオメ、お前は何様やねん。お前が見つけたらガンプクは死なんかったんか。そんな事はないやろ」

いきなりスバシリが声を荒げた。八咫は笑顔のまま恥じ入り小さくなっているアオメに話しかけた。

「アオメ、お前が何も気にする事やない。人の寿命は決まってるもんや。それは、いつも言うてるやろ。そこで終わりて決まったもんは、どんな事になってもそこで終いや。それはな八咫さんでも出来んことなんやで、それだけは覚えとき」

「今日はこれでええ、明日な、又来てくれるか。そうやな陽が沈む前でええからこっちに来て、ええな。何があっても来るんやで」

「承知いたしました」

アオメが、そのまま座敷を出ていくのを八咫は、にこにこしながら見ていた。そのよこでスバシリは、少し怒った顔でいたが、八咫と二人になると表情が崩れた。

「お頭の狙いは、ここにありましたか。鏡の力は絶対、なんもアオメのせいやない。・・・少しでもあいつの荷が軽うなるようにですか」

「・・・アオメはな、俺が拾うて来た子やねん。青い目した鬼子がおるて京で蔓役をしていた時に噂を聞いて、三条大橋の下で泣いてる姿が見えたんや。ああ、先読みの力があって良かったって思うたわ。初めて会うた時、汚いなりやったがあの青い眼がな恐ろしいほど綺麗やった。その眼でえろう苛められたみたいで、何時でも眼をかくしとるねん。小さい子がな。そやからかなぁ。その眼は、神さんがくれはった物やって言うても首をふりよる。自分で神付いう事をこっちに連れてきても納得しとらんかった」

「それでですやろか。あいつが上手く力を使えんのは」

「そうやろうな。そやから・・・八咫者にしてよかったんやろか。まして色々押し付けようとしとるしな・・・」

「落穂拾いも蔓役の仕事やったでしょ。俺らみたいな八咫者に世間は冷たい、ましてアオメのような神付のもんが・・・一人では生きていけんかったでしょ。それにお頭がそれを言うたらあかん。見てて思います。アオメは、お頭に褒めてもらいたいって一生懸命ですわ。お頭が、後悔したらアオメが可哀想やないですか」

「優しいな」

「当たり前でしょ。あいつは、俺にとっても可愛い弟子ですよって」

先代の八咫に頼まれて、サキヨミとスバシリは里の者には内緒で夜半に二人で体術や起爆、簡単な気の読み方をアオメに教えてやっていた。幼いアオメが一生懸命に眠い目を擦りながら頑張る姿をスバシリは、いまもはっきり覚えている。

「そうやったな」

サキヨミも遠い目をして、当時を思いだしていると

「明日は、褒めてやって下さい。これが最期になりますよって、お前でよかったって言ってやってください」

「・・・・」

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