第19話

三幕


いつも通り一人での仕事を終えて、昨日の夜に里に入った。帰って来て直ぐに館に顔を出したが、館詰のネコナデに取り次ぎを頼むと

「先程お頭からな、もうすぐアオメが来るが今日はゆっくり家で休んで、明日出直して来るように言うてくれと言われてる」

「そうですか・・・」

「ああ、今日はもう帰ってはよ寝い」

「はあ、失礼しました」

「おう、おやすみ」

「おやすみなさい」


そのまま、帰って自室で寝てると賑やかな声で起こされた。

「アオメさん、帰っとるんやろ。朝飯くって外の話を聞かせてえな」

「ああ、ウンデか。今日は館の方に行かなあかん。朝飯くったらすぐに出るから話は帰ってからな」

「おう、わかった。仕事の報告か。今日は旨いもんでも作ってやろう」

「そうしてくれ。お前は、田仕事か」

「ああ、もう田植えの準備や」

「そうか。そんな時期か」

「そやから俺は、忙しいんや。早よ起きて、飯にしょう」

ウンデは、アオメと一緒に暮らしている青年で、ここ三年アオメと暮らしながら野良仕事や飯の作り方、里の掟を教わっている。まだ、里の外で仕事をした事が無いので、アオメが外で仕事をするとその様子を聞かせろと何時も土産話をねだってくる。今朝は、互いに忙しい今夜帰ってからゆっくり話をしてやろう。朝飯を食って、館に向かった。


頭の八咫と世話役と呼ばれる者達が、館の広間でアオメがやって来るのを待っていた。

「お頭、アオメに頼んで大丈夫でしたかね」

「ああ、この仕事はアオメで良かったんや」

「それでも、あのおめめは飾りでっせ。なんも見えてない。その辺の悟りの方がまだ仕事しよる」

「ドクミ、言い過ぎやで、お頭が決めはったことやろ」

「スバシリさんかて、文句言うてましたやん」

「ドクミ・・・」

「ああ、アオメが八咫者としては出来損ないやとは、よう解ってる。ただな今回、ガンプクが消えた件は普通やない。俺が直接行ったところで、わからんような気がする。それにこれは結構危ない仕事や」

「それやから、俺に行かしてくれはっても良かったですやん」

「ドクミ、確かにな毒を遣わしたらお前に勝てるもんは、おらへんけどな。自分の形に持っていけん状態でやりあったらどうする。今回、相手にも・・・八咫者みたいな者が付いとる気がするしな」

「八咫者みたいな者ですか」

「そうや、みたいな者や。それを相手に殺りあうのやったらアオメがええやろ。あれは、わけのわからんやり方でやりよるからな。みたいな者もびっくりや」

「まぁ、お頭が納得してはるんやったらしょうがないです。ほんでも、今度こないな事があったら俺に声かけてくださいね」

「おう、その時は頼むわ。今日は、さしておもろい話やないし、ドクミは帰ってもええで」

「なんや、そしたら失礼させて貰います」

そう言いながらドクミは、座敷を出て行った。

「ドクミに頼むことは、もう無いのにな・・・」

「・・・」

「なあ、スバシリ」

「なんですか」

「明日は、側に居ってくれ。もう長くは言わん。明日一日や」

「明日ですか。長かったですな、やっとですか。お勤めご苦労様ってゆっくり祝ってあげたいのに、その時間も無いのでしょうな」

「あぁ、そうやな。何度も先読みをしたが、結果は同じや。そう時間はないようや」

「お頭の先読みが外れた事は無いですからね。皆に言わんでかましませんか」

「大人しいに、待っとけって言うんか。俺の先読みなぞどうでもええが、鏡の定めは変えられへんのや・・・最期がくるまでいつも通りでええやないか。こんな終いになるとは思わんかったがな・・・それより残る奴らに重荷を負わせるしかないのが・・・辛いこっちゃ」

廊下を走る音がして、座敷の外から声がかかる。

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