第13話

四人は表に出ると正面と裏に散った。三人が裏手に回ると八咫は、眼帯を取って眼を開けた。青い光が周りを照らせば、茂みに隠れていた男達が驚いた顔で飛び出してきた。八咫は、黙ったままその辺りの枝を掴むと、まっすぐ一人の男の側によりいきなり男の眼をついた。枝は、目から脳にまで届いたのか男はそのまま動かなくなった。八咫の動きは別段早い物ではないが、いきりたって動く三人の動きが分かっているように、先にまわり、攻撃を避ける。そして、ゆったりと手にもった石くれを一人の男に投げつけた。石は、男の鼻っ柱に当たって、呻きながら動かなくなった。残った男達は、何が起こったかわからぬままに互いに顔を見い合わせた。

「あと、二人か。どうする。そこにおった二人からは、嫌な悪事が見えておったが、ぬしらはそうでもない。もう、悪さをせんなら許してやろう。どうする」

二人の男は、そう言われても逃げる様子がない。互いに引けなくなっていた。

「二人で、引けんようになったか。しょうがない。少し痛い目にあうとええ」

男達は、示し合わせて、二人で同時に打ってきた。八咫は、軽く身を躱すと、いつの間にか握りこんでいた太めの枝で二人の鳩尾を各々思いっ切り突き上げた。二人の男は、声もなく膝から崩れて意識を失った。一方、堂裏では

「ああ、表の四人は終わったようやな。気の毒なことや」

「あっちの方が、悪い奴やったんやろ」

「まぁ、見えたみたいやからな」

三人で話していると、堂を囲んでいた男達が姿を見せた。

「やってもええんかな」

「命を取らん程度にな」

キクと芳一が話す横で、二口の手から一閃が走った。閃光は、男に届くと直ぐに二口の手元に戻っていた。他の男達が声を掛け騒いでも、そいつは何も言わずにぼうっとしていた。まるで何も無いように突っ立ていた。

「二口、何したん。口は、使うてへんかったやろ」

「ああ、先から試してみたかったんや。ちょっと記憶やなんやがなくなるツボがあってそこを突いてみたんや。これ使えるで」

「ふーん、そしたら俺もこれ使わしてもらうわ」

キクが懐から取り出したのは丸い輪。くるくる軽く廻すと逃げ出そうと走りだした男の踵をめがけて軽く投げた。輪っかは、男の踵を捉えてキクの元に戻って来た。キクは、それをすっと手におさめた。踵を切られた男は、呻きながらその場に倒れこんだが、誰もそれを気にする事はない。

「なんやねん。投げて手元に戻るんか。いつの間にそんなもん作ってん、聞いてないぞ」

「何で、言わなあかんねん。いつものやつって、無くなるばっかりやし、跡に残るしな、何かの時、困るやろ。ほら、島の鍛冶屋の五市さんに頼んでな」

「五市って鍬とか鍋とかしか作ってないやろ」

「ほんでも・・・」

キクと二口が話している間に、芳一は残り一人の相手をしていた。先程の二口にやられた男から屶を奪うと、いつものように二、三度振ってみる。最後の一人は、腰が抜けて動けないでいる。暫く考えて、なたの棟で思いっ切り足の脛を殴った。男は、大きな叫び声をあげてそのまま意識を失った。キクと二口は、そこではじめて芳一の方を振り返った。

「もう、芳一さんも容赦ないんやもんな」

「頭が、血を流すなって言うたからやろ。二口ちょうどええは、さっきのやつでキクのと俺がやった奴の記憶の方も消しといて」

「あぁ、はいはい」

「もう、芳一さんには、道具なんて関係ないな」

「いや、そんな事はない。いくら俺でも、頭みたいに木の枝や石ころ使うのは出来ん。刃物やないと、かなんな」

「そうか、お前も出来そうやけどな」

八咫がそう言って、堂の裏に回り込んで来た。二口が軽く索を使っていると

「ああ、二口。すまんが表の二人にもそれやってくれん」

「えっ、生きてるんですか」

「うん、二人はな」

二口とキクは、まだ二人で言い争いながら表の方に消えていった。八咫も芳一は

いつものように念の為、周りの気配に気を配った。

「もう、大丈夫みたいですね」

「ああ、表の方も大丈夫やった」

「念には念をですね」

「ああ、もうあんな事はまっぴらや」

「ここに居るのは、八咫さんが命の保証している者ですよって死ぬことなんかありませんよ。大丈夫ですよ」

「命は、持っていかれんがな。お前らが、痛い目に会うのはいややわぁ」

「・・・栄西さんですか。あれは、気の毒な事を致しました」

「もう二度とあんな事はさせん。それは、お前らに対してもそうやねん」

「よう解ってます。他の者にも言うてます。自分の身は自分で守れて。で、もし捕らえられたら直ぐに裏切って、相手の思い通りに鳴いてやれてね」

「ああ、それでええ。忠義やなんてくそ喰らえや。何をやってもかまへん。それでも、必ず俺のそばに戻ってくるんや。それでええ」

芳一は静かに頷いた。表の方から二人を呼ぶ声が聞こえて皆で、お堂の中に入ると乙が荷物にもたれて眠っていた。四人はその寝顔をみて、ほっと息をはいた。夜が明けきる前に乙が、藪の中に穴を掘って八咫が殺った二人を埋める。後の盗人達は、いつの間にか消えていた。

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