第12話

二幕

早朝に出立するつもりであったが、朝から皆で大騒ぎをしたので少し時が遅くなった。

「今回は、下りは仕事をしはれへんと芳一さんから聞いております。上りで仕事をされます時を考えて、お声を掛けて頂いた御贔屓筋の所を記したもので御座います。もしなんぞ気が変わらはりましたらお知らせ下さい。こちらの方から話を付けておきます」

綴りに目を通しながら八咫は、ニヤリと笑った。

「そうか。そんならすまんがここにある渡海屋につなぎをつけてくれませんか」

他の者もその話を聞いてニヤリと笑った。

「渡海屋さん、江戸のお方ですな。初めての方やったので、まだまだ先になりますと返事をしておりましたのでお喜びになると思います。では、直ぐに返事を入れておきます。それとこれは、お預かりしている分から当座のおあしで御座います。もし、不足がございましたら直ぐにお送りいたしますので、連絡よろしゅうお願い致します」

「ああ、面倒かけるがよろしく頼みます」

京を発って、東海道を江戸まで下る。京に入った時のように裏街道を通ることなく幟を立てて堂々と何の人に隠れる事はない。旅芸人と言う世間に言える顔がある時、五人は其々に楽しんでいる。普段の人とは、違う装いも芸人の歌舞ったものだと言えばそれで済む。ずっとこうしている事が出来ればと、八咫はいつも考えているが直ぐにそうは行かせてくれぬのが八咫を名乗る者の常であった。いつもは、ちゃんとした宿場で宿をとるのだが・・・

今回は、京を出てから何者かにつけられている。街中で襲われる事はないだろうが、万一関係のない者達を巻き添えにするわけにもゆかぬので、宿場から外れた所にあったお堂の中で一晩過ごすことにした。

「せっかく旅にでて、ここで泊まりか・・・」

「キク、しょうないやろ。野宿やないだけましやで」

「うん、分かってるけど・・・」

「そうやなあ、キクの気持ちようわかる」

「お頭、おおきに」

「まぁ、そんなややこしい奴らやない。なぁ、芳一」

「気が付いてましたか」

「ああ、何か妙に気が薄いよって、島に来よった奴らとは違うって思うとった。何か話しとるか」

「ええ、少し話聞いてみましょか・・」

皆、進んで自分の力を使う事はない。八咫の命じるままなのだ。

芳一が耳をぽんと軽く叩くとじっと何かに聞きいった。


・・・「ほんまにこんな奴等が、金を持ってるんか」

   「ああ、間違いないやろ。京のほら大鹿屋から出てきょった。あそこで仕事    をして来たんやろ。あそこは、羽振りがええからきっと仰山ご祝儀もうと    るやろ」

   「ほんでもこんな所で、泊まりやで」

   「ままええがな。酒かう位の金にはなるやろ」

   「綺麗な女もおったしな」

   「お前は、そればっかりやな」・・・


芳一は、今度は軽く耳に手を当てると、ニヤリと笑って

「金目当ての野党ですわ」

と答えた。

「そんな奴らやったら、宿に泊まっても良かったのに・・・」

「キク、しつこいよ。そんな奴らの方が何するかわからん。他のお客さんに迷惑かかるやろ」

「乙ねい、わかってる」

「早い事やろか」

八咫が眼帯をずらした。毎度の事ながら八咫の力にそんなことは関係ないのだ、

気を張るだけで周囲の様子はおおよそ解る。

「何人おりました」

「七人、堂の周りをかこっとる」

「こちらより多いと思うて、無茶な事を」

「ああ、はよすまそ」

「乙は、そのまま荷物を見てて、綺麗なべべが汚れたらあかん。前の四人は、俺がやる。裏手の三人は、三人でやってくれるか。なるだけ血は流すなよ。そこそこ悪さが出来んようにしたらええ。二口は・・・自分でやり方決めたらええで」

「承知」

「はい」

「はーい、あっ でも死んでしもうたら・・・」

「そん時は、・・・しょうがないな」

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